小説 「通奏低音」(1)
《通奏低音とは、賛美歌やオペラでセリフの伴奏で使われる演奏形態。楽譜で書いてあるのは低音一つ。そのれを取り囲むように描いてある数字を抑えている限り、自由に演奏していい。大概はチェンバロとチェロだが、楽器の種類は問わない》
「うっわ、もう9時やん」。
思いのほか残業が長引いた。来週売り出すマンションの説明会資料は作ってあったからいいとして、途中で電柱に貼る会場への案内図、アルバイトの学生にもたれるための矢印、等々。当日3日前に仕上がるタイミングでオフィスデポに発注しないといけないので、今日やるしかない。
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