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『昨夜のカレー、明日のパン』から学ぶ日常にある幸せとは。

日刊かきあつめの5月のテーマが〝カレー”だと聞いて、とても困った。カレーのいいネタなんてない。レトルトの食べ比べでもしようか……。

そんな矢先、GWで実家に帰ると母から、〝カレー“という言葉がタイトルに入った小説をもらった。

「何たる偶然!」と思いつつ読んだら、カレーの話はほぼ出てこないが、人情味あふれるいいお話だったので紹介したい。

木皿泉著『昨夜のカレー、明日のパン』(河出文庫)
<あらすじ>
7年前、25歳で死んでしまった一樹。遺された嫁・テツコと今も一緒に暮らす一樹の父・義父(通称:ギフ)。テツコの恋人・岩井さんや一樹の幼馴染など、周囲の人物と関わりながらゆるゆると一樹の死を受け入れていく。

「お義父さんと嫁で二人きりの共同生活を送る」という点が風変りではあるが、作者もインタビューで語っている通り、小説内で大きな展開はない。

この小説は、ストーリーを夢中で追うよりも、丁寧な日常描写や登場人物の心情の変化に魅力がある。読んでいる途中で顔を上げて、「そうか、なるほどなぁ」と考えさせられるのだ。

たとえば、ガンを患う夫・一樹を見舞った病院の帰り道、ギフとテツコの二人でパンを買うシーン。

パンの焼ける匂いは、これ以上ないほどの幸せの匂いだった。たった2斤のパンは、生きた猫を抱いた時のように温かく、二人はかわりばんこにパンを抱いて帰った。(中略)悲しいのに、幸せな気持ちにもなれるのだと知ってから、テツコは、いろいろなことを受け入れやすくなったような気がする。

ギフとテツコの仲の良さが垣間見えると同時に、「なんかわかるなぁ」と納得してしまった。悲しい時でも、幸せを感じる能力が低下する訳ではないな、と。

ほかには、テツコの周りにいる笑えなくなった客室乗務員、真剣さが要求される場面でヘラヘラしかできなくなった産婦人科医、正座できなくなった僧侶などが登場。自分が思うように生きられない人たちが、ちょっとした出来事から心情が変化し、生きる道を見つけていく。

この文字面だけ見れば、職業に適合しきれず廃業を余儀なくされた人たちだが、普通の人と何かが決定的に違う訳ではない。

私達とさほど変わらない彼らが、ちょっとした出来事から心情が変化し、立ち直っていく姿に感心しながらも、活力をもらえるのだ。

そして、この小説のおまけの魅力は、ギフのキャラクター。

印象的だったシーンが、テツコが恋人の岩井さんと結婚について話すいわば、〝決戦の日“。

テツコがそれを忘れないように、カレンダーに〝雷マーク”を付けておくとギフは、その日を駅前にオープンした〝雷寿司“に行く日だと勘違いする……。

そんなほっこりしたシーンも楽しめる一冊だ。

GWも終わってしまい、日常に手詰まり感を感じやすい今。この小説から日常を見直すきっかけをもらってみては、いかがだろうか。
(私は今回、いろいろな意味でこの作品に助けられた)


編集:円(えん)

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