作文「幸多」
何も考えず、街をふらふら歩いていると、
店のガラス越しに並んだ、
檻の中の、その子を見つけて。
衝動買い…衝動飼いだった。
家に連れ帰って、新たな生活が始まった。
毎日、何度も話しかけた。
言葉が通じない事なんて、わかってるさ。
でも愛おしくて。
スヤスヤ、スヤスヤ、よく眠るその子に名前を付けた。
「幸せが多くありますように」
「幸多(コウタ)」
幸多と暮らして、数年経った頃だ。
私の身体が、もう、もたないようだから、
これを書いているのだ。
公園に連れて行った事もあったな。
その度に、変な目で見られていた。
幸多はこんなにも可愛いのに。
変だよな。
一度も鳴かなかった。吠えなかった。
一度も、目を覚まさなかった。
けれど、私は幸せをたくさん、感じていたんだよ。
公園のベンチで幸多を撫でているうちに、
私は意識を失った。
目の前が暗くなっていく。
それと同時に、幸多の目が、
開いたような、気がした。
ああ、幻覚なのだろうか。
この子は私に、最期に命を宿して見せたのか。
幸多。
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あとがき。
2015年でした。
ペットロスが酷かった頃、
店頭で、
電池を入れると腹部が膨らんでは縮む、
犬のぬいぐるみを衝動買いしました。
「幸せが多くありますように」と、
「幸多(コウタ)」と、名前をつけ、大切にしていました。
その時に書いた詩です。
悲しみと望みと幻が込められた詩です。