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「恐怖を失った男」M・W・クレイヴン


◆まず、これがあの〈ワシントン・ポー・シリーズ〉と同じ作者なのかと吃驚仰天!

◆で、ハヤカワ文庫でもあちらは〈ミステリ〉扱いで、こちらは〈NV〉扱い

◆出だしから、主人公の一人称語りに痺れる……

◆いやぁ~、なんとも魅力的なミルクシェイク大好き蘊蓄野郎〈ベン・ケーニグ〉シリーズ出来!

◆と思いきや……第3部あたりからの荒唐無稽な展開に、個人的には興味半減

◆あまりにもヒト死に過ぎ!

◆シリーズとしての評価は次作を読んでからやね……

《捜査網をすり抜けて生きるために、現金は不可欠だ。必要なのは折りたたみ式歯ブラシだけではない。隠し場所が必要であり、追っ手に気づかれることなくそこへ出入りできる方法を確保しておかなければならない。幸運なことに、単純な答えが見つかった。それまでの生活から離れたとき、おれは国際ビジネス企業(IBC)を立ち上げた。受益者の秘密を守るオフショア会社(域内で営業しないのを条件に非課税法人として設立される会社)だ。株主はおれ一人だけだった。おれは、さほど多額ではない自己資産を全額IBCへ移し、法人用のキャッシュカードを自分自身に発行した。株主や役員の名前は公開していなかったので、調査のすべはなく、したがっておれは必要なときにいつでも自分の現金を引き出すことができた。おれはATMに行くたびに限度額一杯まで下ろし、それが終わるとその町を離れた。どのATMにも監視カメラがある。おれが現金を引き出した町には、二度と戻らないことにしていた。》(89頁)


《おれはグロックを自分の手に収めた。使いこまれているが、動作は申し分なさそうだ。手によくなじむ。頼もしい感触だ。ずっしりした重量感、質感のある銃把、ポリマー製の軀体。おれはずっとグロックを使いつづけてきた。堅牢で信頼性が高い。安全装置を外す必要がないので、いつでも撃てる。どこかで読んだところによると、当初の設計者は左手で試作品を試射していたそうだ。たとえ暴発しても、右手で新しい設計図を書きつづけられるように。おれはそういうプロ意識に敬意を覚える。》(161頁)


《最近では、政府の諜報予算の実に七割ほどが民間 企業に外注されているのだ。》(223頁)


《テキサス人によれば、アメリカ合衆国にはふたつの州しかない。テキサスとTAFTだ。 TAFTとは”This Ain't Fucking Texas“(ここはくそテキサスじゃない)の頭文字だ。ものすごくイカれていて、荒々しく、美しい州。一八三六年にメキシコから反乱州の烙印を押されて以来、ずっと反乱を続けている。人間を月に着陸させたのに、ケネディ大統領は通りに降り立つことすらできなかった州でもある。ドイツの二倍の面積を持ち、住民がケーブルテレビを無料で見るためDISH(アメリカの大手衛星放送)と改名した町があり、連邦政府の規制を免れるため東部にも西部にも接続しない独自の電力網を整備した州だ。テキサス人は歯に衣着せず、独立心が強いので、最終的に合衆国を脱退してふたたび独立州になったとしても誰も驚かないだろう。現に彼らは長年にわたり、そうすると脅してきた。》(277-278頁)


《毎晩、モーテルにチェックインして食事を摂りシェイクを飲んだあと、おれはコンピュータを見つけてジェンが立ち上げた共有のメールアカウントをチェックした。おれたちは何も送信しないですむ信頼できる方法を使っていた。すべてを下書きフォルダーに保存す るだけだ。何も送信しなければ、追跡される危険もない。絶対確実とまでは言えないが、きょうびそんな方法はない。インターネットから隔離されたコンピュータでさえ、ハッキングされることもあるのだ。》(278-279頁)


《おれは四十という数字が好きだ。fortyは英語で唯一、綴りがアルファベット順に並んでいる数字だ。おれはいま三十六歳で、あと四十ヵ月で四十歳になる。その十二ヵ月後には四十一歳になるが、oneは英語で唯一、綴りがアルファベットの逆順に並んでいる数字だ。おれの心はこういう蘊蓄が好きだ。》(281頁)


《二年ほど前、カーク・ラーセンの『おまえの墓を掘れ』という映画を見たことがある。十三分程度の短篇映画だが、強く印象に残った。登場人物は二人、レジーとダンだけだ。レジーに銃を突きつけられ、ダンが自分の墓を掘らされている。このブラックコメディ映 画で、ダンは地面が硬すぎるとか、レジーに持たされたショベルでは掘れないなどと文句をつけたあげく、最後はショベルで土くれをすくってレジーの顔に投げつける。そのときレジーの銃が暴発し、ダンのショベルにぶつかった跳弾がレジーの大腿部に当たった。レジーは失血死し、ダンは自分が掘った墓に彼の死体を埋めるという結末だ。めでたしめでたし。なかなかいい映画で、笑わせてもらった。》(380頁)


《おれがJ.T.を殺したわけではないが、彼が死んだのはおれのせいなのだ。ノースはGUのトラックが乗っ取りに遭ったと知った瞬間に、誰が関わっていたかを悟った。おれに危険を認識する能力が欠けており、まわりの人たちにどんな影響を及ぼすか考える能力が欠 如していたがために、J.T.の命運は尽きてしまった。》(431頁)

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