【第6回】相性の裏に潜む損得勘定
「気心知れていたので信頼していたら、突然裏切られた」という経験は、誰にでも一度はあるのではないでしょうか。
相性の良し悪しの裏に隠れているのが、この「損得勘定」という厄介な性格です。
外資系企業で働いていた時のことです。全社を挙げて新たなビジネスモデルを実際に軌道に乗せるプロジェクトに参画する機会がありました。
目指すべきビジネスに関する実務経験があった私は、他に経験者があまりいなかったこともあり、当時の責任者からとても重宝されました。
その責任者は社内でも評判が真二つに分かれるタイプの方で、私の部下からも、
「あの責任者には気を付けたほうがいいですよ。最初はいい顔するけれど、後で切られた人を何人も見てきたんで」
との忠告をもらったほどでした。
しかし、実際にプロジェクトが進む中で、特にそれらしき兆候はなく、むしろこちらのイメージ通りに(時にはイメージ以上に)ことが運びます。
気が付くと、責任者に対する「妙な噂」はすっかり忘れて、充実した日々を過ごしていました。
責任者と夜食事をしている時も「やあ、ご苦労さん。君の給料もっと上げてあげないといけないね」などと持ち上げられて、すっかりその気になっていました。
プロジェクトが無事に終了して、新規ビジネスが軌道に乗り始めた頃、待っていたのが「突然の人事異動」です。
異動先は、それまでとは役割の異なる部署で、部下もいなくなり、見方によっては左遷とも受け取れる人事でした。
利用価値があるうちはおだてながら徹底的に利用し、目的が達成されると「お役御免」と切り捨てる。
相性の裏に隠れた「損得勘定」が透けて見える、あからさまな手法に、当時は驚きを隠せませんでした。
「なるほど、こういうことなのか……」部下の忠告がフラッシュバックし、改めてその責任者の恐ろしさを、肌で知ることになったのです。
この手の上司は、「使える」と感じた部下を相性よく味方につけ、利用価値がなくなると、今度は手のひらを返したように容赦なく「切り捨て」ます。
部下としても、相性がいいと「勘違い」するので(させられてしまう、と言ったほうが適切かもしれません)、「気づいた時はすでに手遅れ」という結末を迎えてしまいます。
必要なうちは「相性良く」、不要となると「相性悪く」なるのですから、これはもう始末に負えません。
ちなみにこの責任者に登用されて、実質的に使い捨てにされた社員は、その後もあとを絶ちませんでした。
次回につづく
(本文は、弊著『なぜ職場では理不尽なことが起こるのか?』<幻冬舎ルネッサンス新書>より一部抜粋編集し、シリーズ化したものです)