【第7回】勝ち馬に乗るとどうなる?
相性がよいことを「馬が合う」とも言います。
「性格や気が合う、意気投合する」といった意味合いで使われますが、もともとは「乗馬に由来する言葉」です。
乗馬では、馬と乗り手の息が合わないとうまくいかないので、「馬と乗り手の呼吸がぴったり合っている状態」を「馬が合う」と表現するようになったそうです。
このフレーズは、「人間関係が良好で、前向きな印象を与える時によく使われる便利な言葉」でもあります。
同じ「馬」を用いた表現に、「勝ち馬に乗る」という言葉もよく耳にします。
「有利な方につく」「勝った方に味方して便乗する」「力のある人の側について恩恵を受ける」等の意味で使われます。
こちらは、どちらかというとあまり好ましくない時に用いるケースもあり、決して良い響きとまではいきません。
しかし、処世術としては実に効率的で、手っ取り早く、効果てきめんな手段でもあります。
ですが、実際に実行に移す時には、それなりの「覚悟」が必要となります。
以前勤めていた会社で、ある役員と食事をしていた時の話です。お互いに転職してきた口ですので、前の会社の話題にもなりました。
その役員は、前職でも幹部クラスまで上り詰めた、いわゆる出世頭の一人でした。
ところが、属していた派閥の長が派閥争いに負けた結果、一族郎党まとめてリストラの憂き目にあったそうです。
この話になるとその役員は、それまでとはちょっとちがう、微妙に歪んだ自嘲的な表情に変わりました。
おそらく、まだそう遠くない、当時の生き残りをかけた生々しい「社内抗争」が脳裏をよぎったのではないでしょうか。
馬が合えば相性良く、勝ち馬(とおぼしき)に乗ることができます(むしろ「乗せてもらっている」という表現のほうが適切なのかもしれません)。
しばらくは気持ちよい、爽快な乗馬を満喫することになりますが、ゴール目前で失速することもあります。
もちろん、めでたくゴールインすることもあるでしょう。
でもその馬が「損得勘定」に長けた「暴れ馬」だったりすると、ゴールしたとたんに振り落とされてしまいます。
当然、「誰の側にもつかない」というニュートラルな選択肢もありますので、どちらを選ぶかは本人次第です。
しかし、勝ち馬に乗ると決めた時は「身の危険を察知したら、即座に降りる」対策も練っておくべきでしょう。
「危ない目にあっても大怪我を負わないよう、微妙な距離感を維持する」とでも言いましょうか(難しいですが……)。
これはある意味、組織の中に身を置く会社員の「自己防衛策」でもあります。
次回につづく
(本文は、弊著『なぜ職場では理不尽なことが起こるのか?』<幻冬舎ルネッサンス新書>より一部抜粋編集し、シリーズ化したものです)