原木の伐りだし開始
十二月に、マモちゃんと今年の樹を伐り出している現場を案内してもらった。この時期は、伐りだす山を決め、山に運び出すための道を付ける作業を行う。
原木を伐りだせる期間は決まっている。いつでもいいわけではない。十一月末ごろから、三月の上旬までの期間のみだ。伐りだす時期が決まっているのにも訳があるそうだ。
「葉がついた状態で、切り倒したまま置くと、葉からだんだんと水分が抜けていき(葉枯らし)、植菌に適した状態になるんよ。乾燥が不十分だと、しい茸の菌糸の成長が抑えられてしまうからあまりよくないんよね」
三月までにしているのも、それ以降だと新芽を成長させるために樹が水を吸い上げ始めてしまうためだという。しい茸は生きている原木には活着しないのだという。
キノコは読んで字のごとく「木の子」であるそうだが、自分では栄養をつくれないので、木から栄養を分けてもらって成長する。栄養を分けてもらう方法により、二つに分類される。樹と共生して助け合う「菌根菌(きんこんきん)」と、死んだ樹に寄生し樹を分解する「腐朽菌(ふきゅうきん)」だ。しい茸は、腐朽菌に属するため、完全に死んだ樹でないと寄生することができないからよく乾燥した状態の樹が必要だという訳だ。ちなみに菌根菌の代表格はマツタケで、アカマツの根と繋がり共生する。
十二月から三月にかけては、上記の通り例年原木の伐りだしの最盛期だ。ところが、今年はなかなか良い原木を伐りだせる山が見つからず決めかねていたという。今では、伐り出した山も鹿による食害で思うように「萌芽更新」が進まないんだとマモちゃんが言っていた。ネットを張ってもコストと手間がかかるうえに、破られてしまう事もあり、効果があるかどうか分からないという。最終的には、昨年・一昨年伐りだした阿古谷から少し離れた山に決めたそう。
「この山は三十年前におじいちゃんと一緒に伐り出したんよ」
そういって案内された明るい雑木林は、一見台場クヌギも見られ活用できそうに見えるものの実はそうでもないそうだ。
「あのクヌギも良さそうに見えても、近くで見ると相当太いからね」
太い原木は、重くて作業がしづらいだけでなく、しい茸の発生にも時間がかかってしまうんだという。定期的に活用していけば、良い材料が手に入るが、一度バランスが崩れてしまうと元に戻すのは大変だと思った。
帰り道に、見た里山風景。あの山も五~六年前に伐り出した山のよう。しっかりと回復してきていて、また十五年後には使えそうだ。こうした循環・風景を残していきたい。