2022年 31冊目『真実の終わり』
きちんと知っておかないといけない本だと思いました。
「人類の歴史おいて、最もひどい政権のうちの2つが20世紀に権力を握った。その両方が、真実への冒涜と略奪に基づいていた」
その一つは、ヒトラーのナチス政権で、もう一つはレーニンのソビエト政権だといいます。
この本によるとレーニンが作り出したシステムをトランプ政権が利用したことが想像できます。
それは、大統領選挙を仕切り、政権誕生後は首席戦略官としてトランプ政権前半の舵取りをした「ブライトバート・ニュース」の会長バノンは、「自分はレーニン主義者だ」と語っていたことからも類推できます。
バノンは「その死から一世紀近く経つ立つ今、レーニンの革命のモデルは恐ろしく耐久性が高いことが証明されている。国家秩序を改善するのではなく、制度ごと粉砕するという彼の目標は、21世紀に多くのポピュリストたちから支持されているのだ」
「自分の扇動的な話し方は、『憎しみや、嫌悪や、軽蔑をよびおこすことを意図している』」とレーニン自身の言葉を引用しつつ説明しています。
イスラム教国からの入国を制限する大統領令、メキシコとの国境に壁を作るという政策。公民権運動を戦ったアフリカ系議員への中傷。そしてメディアを「アメリカ人民の敵」と呼んで敵視する姿勢。
トランプ元大統領のこの「人民の敵」という主張は、そのままレーニンの言葉だと指摘しています。
大統領就任式に集った聴衆の規模から、地球温暖化の否定まで、トランプ政権が流した嘘は数え切れません。
なぜ真実と理性とは衰退したのか。なぜ人々は政治的操作を受け入れるのか。本書の問いはここにあります。
はじまりは、自由な社会の維持には理性と倫理観、憲法への敬意が不可欠だという考えが攻撃されたのです。
驚くことに、アメリカ建国の父たちは、今の事態が将来起きるだろうことを予見していたそうなのです。
そして、次に人種的・宗教的な不寛容や政府への憎悪、陰謀論が勢いづいたのです。
次に、重要なのは客観的真実ではなく人々の実感を裏づける真実だと意味づけたのです。
さらに、真実に見せかけるフェイクニュースがソーシャルメディアを通じて拡散されたのです。
しかも、これは自然発生的に生まれたのではなく、Facebookの個人情報管理が甘かったので私企業により起こされたのです。
※それは32冊目のマインドハッキングで詳しいです。
歴史的な背景もありました。それは20世紀後半のポストモダニズムです。
客観的実在の存在を否定し、真実は視点や立場に左右されるとする立場は、自己中心的な「わたし」主義と共振したのです。
これを上手に活用したのがトランプ政権だという事です。
いかなる真実も書き換え可能、反論されれば「もう一つの事実」だと言えば良い。ニヒリズムの登場でした。
真実が分からなければ、陰謀論を信じさせるのも簡単です。
本来、ポストモダニズムは、長く権利を剥奪されていた人々の声を拾い上げる反権力的な性格も持っていました。
しかし、ポストモダン的表現をうまく活用し、人種・性差別的主張や各種陰謀論を広めたのです。
これはポストモダニズムの問題というよりも、SNSの悪用が問題なのだと思います。
色々考えさせられる本です。