#2 句読点のない語りをやってみる
コーヒーサーバーを掃除していた女の子が腰を抜かしたまま目の前すれすれまで迫ったバンパーを見つめひっとしゃっくりをひとつしたあと強く握りしめすぎた右手を無意識にひらき圧し潰されていたスポンジが場違いに飛び出すのを見てもう一度しゃっくりをし「大丈夫ですか!」とバックヤードから駆けつけた青年が目の前の惨状にいっとき動きを止めながらもとにかく彼女を安全な場所まで運ぶことを優先したのか足元に散らばったゴミを蹴飛ばしながら駆け寄りそっと女の子を抱き起こすところまでを運転席の男はただ呆然と見つめるしかなくいったい自分が何をしでかしたのか理解したくない頭に現実が少しずつ染み込んでくることに抗っていたがそんな努力もパトカーのサイレンが近づいてくるとすぐさま打ち破られ「乾電池乾電池」と繰り返している自分に気づいた頃にはほとんど引きずり出されるかたちで車から降りては混乱したまま事情聴取が始まったので「大学生?」と尋ねられた時に何を思ったのか「違います」とこたえてしまい訂正するため慌てて財布から学生証を取り出そうとしたが手が震えてカード入れから抜き出すことができず癇癪を起こし地面に投げつけたので警察官は慌てて男を押さえ込み「リモコンの電池が切れてたから!」と叫んだ男が情けなく泣き出すのを横目に無線機で応援を要請し年寄りではなく若者が起こした事故だということがなかなか伝わらず「とにかく二丁目のコンビニまで誰かよこしてくれ!」と怒鳴ったとき鼻先に雨のしずくをひとつぶ感じ「厄日だな」と自分がおさえつけている若者に同情しながらため息を吐いた。