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カタチなくとろけてゆくものをチーズと呼びアイと呼ぶ。ただし彼女はナスと呼ぶ。ナスにはカタチがありとろけない。カタチなくとろけるものはチーズであり、アイはナスである。道端にナスが落ちていた、と始めてもよいのだろうか。どうして道端にナスが落ちていたのか、僕には今でもわからないのだけれど。ましてやアイが落ちているなんてことは。 道端にナスが落ちていた。 「アイが落ちてる」 手を伸ばす彼女を制止しナスを見た。 「どうしたの」 彼女の瞳に少し動揺したが、誰かの愛に気安く触れ
明日世界が終わるっていうのにこんな惨めな気持ちになるとは思わなかった。 人類が不老不死を手に入れたのはちょうど三千年前のことだ。その時世界最高齢だった私はそれからずっと世界最高齢の人間として正しく生き続けた。 三千百二十七歳。誰もが好き勝手に姿を変えられる世界で、ある種の象徴としてこの老婆の姿に縛られ続けた。それが明日世界が終わるという日になって、本当の世界最高齢は私だなどという不埒な輩が現れたのだ。 それなら私の三千年はなんだったというのだろう。何故今頃そんな
一昨日から少女はマスクを三つ必要とした。二つでは足りなくなってしまったせいだ。薬局で右用のマスクと左用のマスクをレジへ持っていくのはひどい辱めを受けているような気持ちだった。今度からは早めにネットで買おうと心に誓う。 朝起きて鏡を見るのは憂鬱だった。ぼさぼさの髪よりも腫れぼったい目よりも耳の近くまで大きく裂けて笑っている口が苛立たしい。毎朝自分に嘲笑われているような気持ちになる。 始まりは左上の親知らずだった。鬱陶しいなあと思っているうちに右上にも生えてきた。それから毎日
総理がホテルニューオータニでからあげの会を開いたことが政治資金規正法違反にあたり野党の追求を逃れきれず解散に至った。メディアは「からあげ解散」と大々的に報じた。どうでもいいことばかりとりあげられるから政治に興味を失った。嘘、始めから興味ない。 車の中で寝ていたらラジオで「しあわせなら手をたたこう」が流れてきた。手だけじゃなくて足鳴らして肩叩いてほっぺ叩いた。ほっぺ叩くのはヤバくない?とか思ってしまう自分の洗脳具合に嫌気が差した。指を鳴らすとラジオは消えた。嘘、エンジン切った