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怪異蒐集 『ヒトガタの家』

■話者:Eさん、家業手伝い、30代
■記述者:黒崎朱音

 旧市街に住む、Eさんの話。

 中学生のころ、Eさんはよく旧市街にある公園で時間を潰していた。母親が勉強しろと煩く、家にいたくなかったからだ。

 ある日、公園の前で友人のNさんに会った。そのNさんが妙なことを言った。夕方にヒトガタを持ってこの辺りを歩くと、変な場所に迷い込むことがあるという。
「ヒトガタってなんなん?」
 そう聞くと、Nさんは折り紙で折った妙な形の人形を渡してきた。Eさんは馬鹿らしいと思いながらも、暇潰しにNさんに付き合うことにした。

「ヒトガタを納めにきました」
 Nさんを真似て、そう言いながら夕暮れの街を歩く。すると、何度目かに角を曲がったときに見慣れない場所に出た。
 目の前に板塀に挟まれた狭い路地が伸びている。塀に門や扉はなく、人の気配もしない。辺りは静まり返り、空は塗りつぶしたように真っ赤になっていた。
 Eさんはパニックになったが、
「ヒトガタを捨てると帰れるよ」
というNさんの言葉に従ってヒトガタを手放すと、元の街に戻った。

 帰れるとわかったら安心できて、EさんはNさんと、定期的にその路地を散策するようになった。怖さもあったが、好奇心のほうが強かった。
 路地は迷路のように入り組んでいて、Eさんは散策に夢中になった。帰るためのヒトガタは毎回、Nさんが用意してくれた。

 何度目かの散策で、路地が突き当たった。突き当りには二階建ての古い家があり、二階の窓の向こうに人が並んでいるのが見えた。
「声かけてみる?」
「でもなんか怖いよ」
 躊躇っていると、バンと大きな音を立てて玄関が開いた。

 驚いたNさんが、弾かれたように逃げ出した。Eさんも慌てて後に続く。玄関から何かが出てきたらしく、追ってくる足音が聞こえた。
 Eさんは急いでヒトガタを捨てようとしたが、ヒトガタはいつの間にか黒ずんでいて、走っているとボロボロと崩れた。

 転びそうになったEさんの手をNさんが握る。そのままNさんに引っ張られるように、Eさんは全力で逃げた。しかし、あっという間に背後に貼りついた何かの手が、Eさんの肩に触れた。

「手を離して」

 そう言われてEさんは思わず、握っていたNさんの手を離した。
 次の瞬間、Eさんは公園に面した道路をひとりで走っていた。それきり、Nさんはいなくなってしまったという。

「もう一度、あの路地に入りたいんです。でも、いくら試してもだめでした。Nのものに似せて、作っているんですが」

 Eさんはそう言って、懐から折り紙で折った人形を取り出した。人形は使い古されたように色褪せて、何度も折り直した痕があった。

「Nはきっと、あの家にいるはずです。もし会えたら、今度は私がNのヒトガタになるつもりです」

 Eさんは今も夕方になると、ヒトガタを手に街を歩いているそうだ。

■メモ
・後半の展開ちょっと洒落怖っぽい。(水鳥)
・ね。ヒトガタはやけに使い古した感あった。(朱音)
・赤い空ってよく聞くよね。みたま市は異界に迷い込む系の怪談が多くて、その大半に赤い空っていう共通モチーフが出てくるイメージ。(亜樹)
・同じモチーフの話を追うと他にも類似点出てきたりするのかね。それを探すのも怪談の面白いとこだけど。(朱音)
・ヒトガタにもモチーフあるんかな。(水鳥)
・かもね。「ヒトガタを納めにきました」って台詞、具体的だし。(朱音)
・ところで「手を離して」ってNさんの台詞? それとも追ってきた「何か」の台詞?(水鳥)
・Nさん……かな。「何か」の台詞にしては丁寧っていうか人っぽい気が。(朱音)
・もしNが実在する人物じゃなくて、EさんがNによって異界に誘われてたんだとしたら、「何か」の台詞によってEさんが救われたって解釈もできるかも。(亜樹)
・なるほど×3。そうすると手を握るってのが別の意味を持つね。(朱音)
・N、やけにヒトガタの扱いに詳しいしな。(水鳥)


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