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怪異蒐集 『七めぐり』

■話者:Kくん、小学生、10代
■記述者:火野水鳥

 Kくんが小学生のとき、家にミィという白猫がいた。腹を空かせてミィミィ鳴いているときに餌をやったら居着いてしまった、半野良の猫だった。
 
 小学五年の夏休み、Kくんは暇になった。皮膚の病気を患って、日中あまり外に出れなかったからだ。外を遊び回る友人を羨みながら、ひとりで家で遊んでいたが、やがてそれにも飽きて、仕方なく宿題に手を付けた。どうにかして楽に自由研究を終わらす方法はないか、と考えていると、あるアイデアが浮かんだ。
 ミィは猫だから散歩をする。でもどこを散歩しているかわからない。首輪にGPSを仕込めば、それがわかるはずだ。調べてみると、GPSが付いた首輪は数千円で買えた。Kくんは自由研究を理由に親を説得して、首輪を購入してミィにつけた。
 
 一日が終わり、パソコンを開いて首輪のデータを地図上に表示した。近所をぐるっと回っているんだろうと思っていたら、ミィはまっすぐにある場所に向かっていた。向かった先は、家の最寄りの神社だった。猫の集会所かな、と考えたが、翌日は昨日とは別の神社に向かった。その翌日はまた別の神社に、さらに翌日はさらに別の神社に向かい、週が明けると最初の神社に戻った。つまり一週間の周期で七つの神社を回っていたのだった。
 
 行動はわかったけど謎は深まった。ミィがなぜ神社を回っているのかさっぱりわからない。このままでは研究として中途半端だと思った。

 ミィが最寄りの神社にやって来る日、Kくんは長袖を着込み、神社に先回りした。石碑の陰に隠れて待っていると、やがてミィが入ってきた。ミィは拝殿の前で立ち止まると、前足で顔を洗った。拝んでいるように見えなくもない。それはないかと思っていると、後ろ足ですっくと立ち上がった。
 
「えっ」
 
 思わず声を出してしまい、ミィが振り向いた。
ミィの丸い目がKくんをじっと見る。やがてミィは何事もなかったように前足を下ろし、神社を出ていった。
 
 それきり、ミィは帰ってこなかった。
 GPSの痕跡は家と逆の方向に向かう途中で切れていた。街中の神社を探したが見つからず、逆に日差しの中を走り回ったせいで皮膚の状態が悪化して、夏休みの後半は布団で過ごすことになった。寝ている間ずっと、ミィの丸い目を思い出していた。
 
 その夏が終わるころから、Kくんの皮膚の状態がよくなってきた。想定よりずいぶん回復が早いらしく、薬が効いたんだね、と両親は喜んだ。

 Kくんは、ミィのおかげだと思っているそうだ。

■メモ
・猫の話は涙腺ゆるくなる…(朱音)
・同じく…(水鳥)
・七めぐりってこの話みたいに神社を巡るって意味?(朱音)
・いや話聞いてパッと付けたタイトルだけど、調べたら別に参拝ってわけでなく「七回めぐる」とか「何度もめぐる」って意味の言葉だった。あと「四十九日」って意味もあったけど(水鳥)
・四十九日?(朱音)
・四十九日=七日✕七日ってことかな(水鳥)
・ほう(朱音)
・伊勢物語では四十九日のこと七七日って書いてある(亜樹)
・読み方って「なななのか」?(水鳥)
・あってる。他にも「なななぬか」とか「しちしちにち」とか(亜樹)
・あ、なるほど。初七日から二七日、三七日…ってなって、七七日(四十九日)になるわけね(水鳥)
・ということは仏教的な意味で使われる言葉?(朱音)
・あ。だったら今回神社を巡ってるから「七めぐり」って言葉はあんまりそぐわない?(水鳥)
・別に仏教系に限った言葉ではないと思うよ(亜樹)
・仏教だと七日毎の法要を七回やって四十九日で忌明けだよね。神道にもそれに相当するものあるっけ(水鳥)
・神道だと十日ごとに霊祭やるから、五十日で忌明けかな(亜樹)
・仏教と神道って忌中だけでなく喪中の期間も違ったりする?(朱音)
・喪中はどっちも1年(13ヶ月)だったと思う。ただ神道は亡くなった人によって喪中の期間が変わるとかあったような…俺もそのへんあんまり詳しくない(亜樹)
・神式の方はあんまり気にする機会ないから全然知らない…(朱音)
・まあ、そもそも別の宗教だから、死後の魂の考え方だったりとか全然違うしね(亜樹)
・たまに掘り下げようとしたらわかんなくなっちゃうな。宗教学の講義ちゃんと出なきゃ(朱音)
・うっ(水鳥)


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