隣人
最近マフオ(うちの老犬)のお散歩は、足が不安定なので、徒歩2分の距離を抱っこして、近くの公園に行きます。
小さく見えますが、筋肉質なので、7㎏あります。
途中で落としそうになります。
昨日道路を渡って、ドラッグストアの前で「あら、抱っこしてお散歩?」って声をかけられました。
親しげなのですが、私はこの人を知らないです。
「年とったね!でも顔は元気そうだし、あと5年は大丈夫よ」
と、のたまうこの人は誰?
私は、グルグルと思考をめぐらし、この人の正体を探すのですが、ヒットしません。
「時々バタッて転ぶ音してるから・・・」と言われて「あっ!!」とわかりました。
私の家はマンションで、彼女は階下の人です。
人間、短時間でこんなに顔が変わるの?って思う程、別人でした。
私が今のマンションに住みはじめた、20年前階下の住人は、品のいいおばあ様でした。
一度何かの用事で、お伺いしたことがあります。
内装はダークブラウンのフローリングで、すっきりと片付いた部屋は、少しレトロで、趣味のいい部屋でした。
そのおばあ様が70才位になられた時、娘さんが同居されました。
このマンションはペット可ではなかったのですが、その頃すでに5件くらいの家で飼っているようでした。
なので私はペット可だと思っていました。
その後いろいろとトラブルも起きるのですが、飼ってる家が多かったので、理事会にかけられて、今飼っているペットが亡くなったらもう飼わないということで、規定が但し書きされました。
この娘さんには、たえずいろんな苦情をいただいていました。
子供とうっかり、ちょっとはしゃいで踊っていると、すぐさま電話がかかってきます。 マフオが吠えれば電話がかかってきます。
お母様がお元気な時は「うちの娘は、神経質でごめんね。気にしないで」とフォローして頂いていました。
マフオのことも、朝8時前に吠えさせるな、とか無理ですよね。
ずーっと吠えてる訳じゃなくて、ワンと一声なんです。
そして、しまいにはポストにおどろおどろしい手紙が入っているようになりました。
「私は頭痛持ちなので、歩く時にバタバタ歩かないでください。
犬は朝8時前には絶対に吠えさせないで下さい。 私はあなたが起きてベランダ側のサッシを開ける音も全部、わかっています」
というような内容です。 どうしようかと思いましたが、思い切って私もお返事を書いてみました。
「いつもご迷惑をおかけしております。 少しどうしたらいいのか、教えて頂きたいことがあります。 犬を吠えさせないようにするのにいい方法があったら教えて下さい。 長男は、歩き方がドタドタしています。
腹筋に力をいれて歩けと、いっているのですが、なかなかできません。
どうしようもないこともありますよね。
山の中の一軒家に住んでるわけではないので、少し譲歩していただけないでしょうか?
私も上の階の生活音が気になることもありますが、お互い様と思っているので苦情を言ったことはありません。
どうぞよろしくお願いいたします」 というような内容でした。
それからというもの、苦情はなくなりました。
ほとぼりも冷めた頃には、立ち話位はするようになりました。
彼女のお母様は亡くなって、私は子供たちも巣立って、お互い一人になりました。
春頃、マンションの前に救急車が、とまっていて、彼女でした。
彼女は多分私と同じくらいの年齢だと、思います。
しばらく入院していたようで、ハーフの娘さんと、外人のご主人と思われる人がきていました。
10日位で帰ってらしたのですが、もともとキレイな人ですが、げっそり瘦せていて、その弱々しさに、声もかけづらい感じでした。
不安だったのでしょう。 ラテン系のご主人らしき人が、戻って同居しているみたいでした。
そして、そこから半年くらいですか。
昨日声をかけてきた彼女は、病気で弱っていた頃の儚い感じからは、想像も出来ない人に変身していました。
以前のような繊細な感じは一切なくなり、美しさも損なわれたのですが、現実を受け入れて生きる力強い変身劇でした。
人間は変幻自在な生き物だと、感銘した次第です。
ナカムラ・エム