パラレル 7
この所、秋雨前線でしょうか、涼しいを通り越して寒いですね。
お日様が恋しいです。
一昨日は、肌寒い中、出光美術館に行ってきました。
こんなお天気だから、すいてるかと思いきや、大盛況でした。
酒井抱一と伊藤若冲ですから、やはり人気ですね。
さてパラレルも7話になりました。 どうぞよろしくお願いします。
アリエナクナイ、イミナクナイ、ヤバクナイ、などの語尾が上がる疑問を投げかける言葉は、アリエナイシ、イミナイシ、ヤバイシ、と言う肯定系に
変化を遂げ、ほとんどの感情はこの僅かなボキャブラリーでかたずけられた。 私の話など、話半ばでこの言葉のどれかに叩き潰されるのだ。
私達は相いれることなく、とげとげになって、時にそのとげが絡み合うという最悪の事態の中にいた。
明日実は、お笑い番組とドラマの禁断症状、そして先月のセブンテイーンを見ては流行りのコスメと服をチエックして、おおきな溜息をついて、バタンと閉じる。
遥人は、オリコンチャートと映画、所謂レンタルビデオ屋禁断症状・・・。
壁にテニスボールを投げ続けている。
虚ろかつふてぶてしい二人を前に、私はなんとかしなきゃと、思って、
憧れて止まない関西弁でちょっとかましてみた。
「ちょっと聞けや わてはな、あんたらを思いどおりにしようとか、エリートコースを歩んでほしいとか言うてんのとちゃうねん。
人の話を聞く人間になってほしいただそれだけや!
そやなかったらあんたら人として成熟でけへんやろ!
そら人は正しいこと言うとは、限らんかもしれん。
そやからってちょっとさわり聞いただけで、耳ふさがんで落ち着いて聞けいうてんねん。 一通り聞いてから、そやなって思う事と、それはちゃうって思うことと、己で判断したかて遅ないやろ。
せかせか、せかせかウザイ、キモイ、アリエナイで片付けるなって言いたいのや。 わかったかこのドアホ!」
ふと二人を見るときょとんととして、そして、噴出した。
久々に笑った。 ほんまもんの関西人が聞いたらけったいな関西弁喋るな! しばいたろか?と言われそうだ。
それでもこの奇妙な時間は親子の希薄な関係を修復すべく与えられたものだとしたら、生かしたい。
何年いっしょにいても、どんなに好きな人のことでも、全部理解するなんてことはありえない。 そこまでは求めてない。
だけど、私達は決定的に、どこかがずれたままなんだ。
カシャっと小気味いい音を立ててかみ合うポイントみたいなのが、きっとあるはずだと思う。
私は自室に戻ると、畳の上に寝転がった。 ここは唯一の和室だ。
当初、洋風にしたくてカーペットを敷いたが、白っぽいベージュは、すぐに薄汚れてきて、おまけに素足で歩くとチクチクするから、思い切って外した。 子供の時以来の畳の感触はいいものだった。
もう世の中は梅雨入りして、じめじめした日が続いている。
子供の頃、梅雨になると、わざわざぐちょぐちょの畦道を、くねくね歩いて、ピョンピョン跳ねる蛙に嬌声をあげていた。
たまに蛇にも遭遇した。
土の匂いなんてものは空気と同様にいつもそこにあるものだった。
私は目を瞑って大きく息を吸い込んだ。
湿気を含んだ大地の匂いが胸に蘇った。
こんなこと、もう何年も思いだすことすらなかった。
そんな郷愁に包まれながら、いつの間にか眠りについていた。
つづく
ナカムラ・エム