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いまさらながら『CURE』の感想

今年は黒澤清監督の『chime』『cloud』があったので、いまさらながら『CURE』を初めて見た。
結果的に続けて2回見たけど、めっちゃ面白い。噛めば噛むほど味がする映画。
時間をかけて考えるほどいろんな解釈ができるし、辻褄があっていく。
何パターンも答えがあるパズルを解いているような、そんな爽快感がある。

常識人が人を殺していく恐怖

猟奇的な殺し方で動機がわからない。そしてシンプルにグロ映像という怖さがある。急な飛び降りとかもビクッとする。

それに加えて、実際に自分が生きてる世界でも存在する距離感の人たちが殺人を行っていくという怖さがある。
映画内で行われる殺人の犯人は教師、警察、医者、といった模範とされる人たち。
教師の男は妻を、警察の男は同僚を、医者の女はたまたま会った男?を殺した。教師の男以外は「日頃の恨みが溜まっていた」「過去に見下された」といったことを言っており、誰でも持ってるような平凡な恨みの結果殺人を犯している。

殺人犯の立場をわざわざ普段尊敬されるような職業の人たちを選んだのは「人間の二面性」「深層心理にある野蛮な面」を描きたかったのではないかと思った。
「基本的な倫理観を変えることはできない。殺人を悪と思ってる人間に殺しを暗示できない」というセリフもあった。

「あー、人には言えないけどおれも殺意を持ったことあるな」と思ってしまった。

催眠のポイントは光と水

催眠をする上で一番重要なのは恐らく光。間宮はライターの火を見せながら催眠を行う。
催眠にかかった人はその後なにかの光を見るとXを描く行動をするように暗示されている。

警察官が殺人を行う直前には、電気シェーバーの充電ライト?が点滅するシーンが映っている。さらにその殺人を犯した警察官が取り調べを受ける際に小さいライトを目に向けられた直後、見張り役の警察の首をXの字で切りかかる。
一番最初のホテルでの殺人は、直前にトンネルの明かりがチカチカするシーンがある。

推測では光や火で催眠をかけられた人は、同じく火や光をみることで殺人を犯す。一方、水を使って催眠された人は、水を見ると同じ行動をするように暗示されている。

医者が催眠をかけられる際にはこぼしたコップの水が使われる。その後の殺人シーンでは公衆トイレの水があふれており、こぼれる水を見たことで殺人を行ったと推測される。

この映画でははっきりと催眠の原因を明示することはなかったため推測でしかないが、火や光、そして水が催眠に不可欠なのは間違いないと思う。

その他の殺人

教師を催眠するときはライターを使っていたが、殺しを行ったときのシーンはないため明かりを見たかは不明。そしてその後に飛び降りたのはなぜか気になる。

精神科医は手をつないだ状態で発見されたが、おそらく自分が暗示をかけられたと気づいて、他人を殺さないように自ら手をつないだのではないかな。

一瞬考えたパターン

おそらく違うけど、これも否定はできないよなと思ったパターンがひとつある。
それは最終的に高部が伝道師になっていたというオチ。ミイラ取りがミイラどころかその根源になっているという感じ。

その根拠は2つあって、1つ目ラストのファミレスのシーンで包丁を持つ女性店員は間宮と接触した描写がないこと。つまり高部が伝道師となって、ファミレスに通ううちに女性店員を洗脳していた。
2つ目はクリーニング屋で記憶が曖昧になっている様子。伝道師である間宮は記憶障害を持っており、伝道師は副作用かなにかで記憶に異常が起きのであれば、高部がクリーニングに出したかどうか忘れているシーンが入れ込まれているのも納得できる。

でもこの考察は少し考えすぎで強引な気もする。クリーニングのシーンになにか意味はあると思うが理解できなかったので、無理やりこじつけたと自分で感じる。
もう一回見たら別の考えが思い浮かぶかも。

一切説明しないカッコよさ

この映画がめっちゃ刺さった一番の理由は「一切説明しないカッコよさ」だと思う。
映画によってはセリフとか、一番最悪なのはナレーションで説明する場合があるけど、「ただ文脈を追ってるだけ」というか、「解釈を押し付けられてる感覚」というか、自分で考える楽しみがないから好きじゃない。

でもこの映画は説明的なところがまったくない。でも映像や演技をちゃんと見たら自分なりに理解できる。
作り手の堂々とした感じがかっこいいし、自分で理解してシーンとシーンがつながったときは気持ち良さもある。

結局は催眠の方法も明らかにしないし間宮が本当に記憶障害かどうかも確証はない。でもそれが不安を煽るし、想像を掻き立てるからよかった。現実で起きることも実際はそうだし。

優しい説明付き映画でないため想像を膨らませるしかない。
「映画は事件の一部をのぞき見するだけのツールで、すべてを知れる神様ではない」といったのを感じれて、とても好きだった。

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