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『きみの鳥はうたえる』| あえて見せない撮り方

1回目観終わってから余韻が抜けず、好きすぎて2日連続で観た。
表情や風景、音楽が心地いい。大人の青春映画という感じ。
昔付き合いそうだった時の、あの微妙な距離感を思い出させてくれる映画でした。

誰でも近づくにつれていやらしく憎い面が見えてきたり、逆にまだ遠い存在だと嫌なところはぼやけてキレイな点ばかり見えると思う。

この映画での3人の関係は、一方が近づけばもう一方は離れる。それに合わせて相手が美しく見えたり嫌に見えたり、微妙な関係性の3人だからこそ成り立つ距離感が、見ていて感情を揺さぶられた。

また、自分が31歳で登場人物と年齢が近い?からなのか、三宅監督と世代が近いからなのかわからないが、細かいシーンで昔を思い出して共感することが多く、全シーン好きと言えるぐらい印象に残った。映画の温度が心地よくて、自然と身体にしみこんでくるような感じ。

好きなポイントは大きく2つあって、まず「見せるものと見せないもの」が意識的に分けられている点。常にそういった映し方がされていて、そのあえて見せないようなシーンの積み重ねのおかげで、最後のあるシーンが強烈に印象に残った。

もうひとつは静雄の描き方。よく考えると静雄の不可解というか不審な点が気になってしかたない。思い出してもらうと静雄の「あれはなんだったんだろう」というシーンがあると思う。

見せるものと見せないもの

この映画は細かいものから大きいものまで、あえて写さないということをポイントポイントで入れてきてると思う。

例えば佐知子と静雄がはじめて会って家で乾杯するシーンは、僕(柄本佑)の表情だけが映されていて乾杯する2人は声と音だけで認識できる。本屋でバイト中、僕(柄本佑)と佐知子がスマホでメッセージをやり取りしてるが、それぞれの表情だけピックアップされているのでメッセージの内容はわからない。

そういった演出では、画面外で起こっていることを登場人物の表情から読み取る必要があるので、想像力が掻き立てられる。

そしてクライマックスでは終盤の僕(柄本佑)の表情が強調して映される。
静雄が倒れた母親に会いに行くために朝目覚めると、すでに僕(柄本佑)は起きている。そのときのカメラは僕(柄本佑)の表情だけをとらえていて、寝ている静雄と佐知子の姿は映されない。
僕(柄本佑)は何とも言えない顔をしている。哀しくてきれいで清々しさもあるような、とにかく印象的な表情をしている。

いま考えるとあの瞬間、僕(柄本佑)は静雄と佐知子の関係を悟ったように思える。ストーリー上はまだ静雄と佐知子が付き合ったことは明かされていないが、この2人の寝ている姿を見て、おそらく僕(柄本佑)はそのことを悟った。

観客側にも僕(柄本佑)にもキャンプで2人になにがあったかわからないが、あの夜に2人が寝ている姿を見て僕(柄本佑)は何かを感じ取った。2人の間で起きたことを観客は「僕(柄本佑)の表情」から想像する。

そのシーンにこの映画の好きなところのすべてが詰まっている。僕(柄本佑)の表情は鏡みたいな役割を果たしていて、画面外で起こっていることは表情を反射させて観客自ら想像する。

このあえてすべて写さないことが、逆に印象的で記憶に残る。あえて見せないという小さくジャブを映画の最初から積み重ねて、最後に強烈なパンチを喰らった、というぐらいの衝撃だった。

不可解な静雄の行動

役名から考えてもこの映画の主役はたぶん僕(柄本佑)で、僕(柄本佑)の生活のほとんどは見ることができるので、彼の考えや行動は理解できた。

一方静雄ももう一人の主人公と言えるほどクローズアップされているが、まだすべてを知れてないというか、どこか引っかかるという印象が最後まで残った。

最初に引っかかったのは、警察に静雄が職質されていて後から僕(柄本佑)と佐知子が合流するシーン。なぜか携帯やイヤホンなどの持ち物が地面に散らばっている。職質されただけでそんな状態になるか?と少し思う。

また、静雄の母親が家に訪ねてきたとき、僕(柄本佑)のケガを見て「そのケガ、うちの子が?」と聞く。
これまでの静雄を見ている感じではまさか暴力を振るうような人には見えないが、母親が知る静雄は暴力的な一面があるのかも。と思った。

もしそうであれば職質のシーンも、静雄自身がが持ち物を地面にバラまいて警察に対応していたのかも?と邪推してしまった。

あと終盤にも気になった言動があった。3人でダーツをしてるとき「佐知子は何もわかってない」という発言がこれまでより冷たく感じる。
序盤より静雄との距離感も近くなってきたことによって、これまで見えてなかった嫌な部分が見えているような気がした。

静雄の行動に疑問を持ってからは、あのミシン屋?のシーンもなんだったのかが気になる。

静雄の存在が「まだ深掘りできる、何回も重ねてみる価値のある映画」だと思せてくれる。

最後に

この映画は「見せるものと見せないもの」もそうだし「静雄の不可解な行動」もうそうだけど、細かいところにこだわりが詰まってて、まさに神は細部に宿ると感じる。

他にもこの映画でいいなーと思うのが、視線で好意が伝わるところ。佐知子が僕(柄本佑)に好意があるのは、パン屋でランチしてるときの彼女の視線で伝わるし、静雄が佐知子を好きなんじゃないかなーっていうのは、ビリヤードとかカラオケでシーンで伝わってくる。

あとはクラブのシーンがシンプルにめっちゃ好き。あの3人の中に自分もいるような、ぐっと近くに彼らを感じられる体験だった。

好きなところが多すぎて書ききれない。見れば見るほど好きなところが増えていく映画。

冒頭で言ったように自分の中では「初めてのジャンルの青春映画」で、人生の中でも重要な1本に出会えた映画体験でした。

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