ピアス
ピアスを開けた。
冷凍庫からありったけの氷を出して、袋に入れ、痛いほど耳を冷やす。
母はソファで寝ている。
耳の感覚がなくなってきた頃、ピアッサーを耳にあてる。
開ける位置に気をつけて、一気にボタンを押す。
「バチン」
という音がテレビの音の間で響いた。
痛みよりも母が起きなかったかということに気を取られ、恐る恐るソファの背中越しから母の方を見た。
母は寝ていた。
鏡で耳を見た。
耳は赤くはなってはいたが、血は出ていなかった。
金色の丸いピアスが光っていた。
両耳を開け終わり、空のピアッサーをゴミ箱の底の方に入れる。
氷は全部使ってしまったので、製氷機に水を入れる。
鏡を片付け、耳が見えないよう髪を下ろす。
母の前を、不自然ではないくらいに急いで通る。
おやすみ、という声が少し上ずっている。
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