海の話-1
海に来た。
初めて来る海だ。
見知ったそれとは違う、青空をそのまま反射したような青い海だ。
イソくさい。
昨日の波が運んできた海藻が浜に打ち上げられている。
海が怖い。
晴れた日の陽気な海が怖い。
黄色く渇いた砂浜と青い海。
シンプルな、馬鹿げた陽気を表現したようなカラーリング。
その暴力的なまでの陽気さの中に所在無げに、しかしはっきりとその存在を横たえているドス黒い藻。
渇いた空気の中、ヌメヌメとした湿り気と臭気を纏うそれは、私に逃れようの無い「死」を連想させた。
生命の海、母なる海と表される神秘とは対照的に、その黒い不吉は確かな現実を私に見せた。
何も言わず、ただ運ばれるがままに、漂うままに打ち上げられ、渇き、異臭を放ち、朽ちていく。
黄色と青のカラーリングは、そんなドス黒さなど見えないかのように、煌々と鮮やかに笑っていた。
海が怖い。
波の飛沫がこちらまで飛んでくる。
小さな丸がひと粒、ふた粒。
目を上げると楽しげに波に乗る彼/彼女らの姿が見えた。
プカプカと浮かんでいる姿はとても可愛らしい。
高校生の頃、美術室からグラウンドでトレーニングをしている野球部の姿を眺めるのが好きだった。
白いユニフォームとキャップを被った小さな彼らが、統率の取れた動きで緑色のグラウンドをコロコロと動くのが愛らしかった。
目の前の彼/彼女らは、青い海の上を黒いウェットスーツを着て自由に、しかし波に促されるがままプカプカ浮いている。
昔は窓越しに、今は柵越しに。
私は彼/彼女らを愛らしいと眺めている。
黒い不吉に目もくれず、乾いた砂浜を駆け抜け海に飛び込む、彼/彼女ら。
黒い不吉を眺め、誰にも理解されない悼みを想い、海を恐れる私。
黄色と青と黒に囲まれて。
だだっ広い海の端の端で私たちは海を語る。
「おーい」
彼が海の中で手を振る。
「はーい」
私が砂浜で手を振り返す。
白いカモメが私たちの上を飛んでいる。