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植田新総裁の国会承認を記念して、所信聴取のポイント

植田先生の完璧な所信聴取に、爽快を通り越してちょっとぼーとしてます。全党から全く批判がなくつつがなく終わられたのがさすがと言うほかない完璧なものですが、さらに言うと、学会からも全く文句がない答弁なのが感動的です。植田先生の説明はもっと学者的にも勉強になりますが、答弁という制約もあり、なかなか質問も標準的なものにとどまってしまうため、まだまだ学者的には伸び代がありますが、それでもついに日本も総裁の所信聴取が世界最高水準になったという意味で感動してます。以下ポイントを。

そもそも今回はどのように出口戦略を図っていくかという極めて難しい金融政策運営が求められるところです。更に、従来の異次元緩和策との連続性や整合性、更には理論(学会)と実務との連続性を踏まえながら、今後の問題に対処するという非常に難しい答弁を完璧にこなされています。しかも重要なのは、いってはいけないことも数多くあるので、そこを言わないこと。ここも完璧でした。

たとえば、マクロ経済学では現在、名目から実質への影響を特定化する理論研究は非常に少ないことが知られています。それをふまえ、植田先生は名目に主に焦点を絞り、例えば実質賃金は生産性の影響が大きいため、目配せはするが目標とはしないということもしっかり述べられています。また、その効果は働き方改革などの規制改革が後押しになるとも述べられています。近年は価格を上げないという行動が非常に強く、これが安定的な物価上昇を阻害してきたという面を指摘されています。また、衆議院ではこういった安定的な物価の上昇が完全雇用が実現した時という言い方で、完全雇用というGDPとの関係については参議院で少し触れられていました。

また、現在4%のインフレにも関わらず、なぜ従来の2%目標を継続するか、どうなったら正常な金融政策にもどすかについて、現在は一時的なコストプッシュにたいして、恒常的なデマンドプル型の持続的なインフレを目指すというのが教科書的な説明ですが、後者を基調的なインフレと述べ、景気改善のことを、基調的なインフレへの芽が出ているのでそれを育てるという言い方で、従来の金融政策としての一貫性、日銀の独立性、政府の権限へ介入しないことを説明しておられました。

学会的には前原議員の質問が本質的でいい質問なのですが、所信聴取のような状況では根本的なことは言いにくいので、魔法のような金融政策ではなく伝統的な金融政策を行う。ただしタイミングが重要であるということにとどめられました。またそのタイミングが誰が総裁になっても最も難しいわけですが、植田先生はこれまでの実績から適任であると考えています。

以下個別に参考になったこと。
1. 実は植田先生が審議委員時代の量的緩和と現在の異次元緩和の違いについて、2000年当時の量的緩和は、既にゼロ金利に近い短期国債とベースマネーといった代替性の高い財のオペレーションによる量的緩和になっており、効果が低いのに対して、現在は長期国債のような依然として金利がプラスになっている金融商品の購入によるオペレーションのため一定の効果がある。という説明で、非常にスッキリしました。

2. バブル以降の不良債権問題に加え、近年は、消費者企業が物価が上がらないことを前提とした行動が根付いており、それが物価を抑えてきたことが考えられる。現在はそれがやや崩れ始めている状態。

3.マイナス金利が地銀を中心に銀行収益を圧迫している懸念はあるが、適応されている金額を当座預金の極めて小さい部分に限定するなどの対策を講じている。その上で自己資本も十分でクレジットリスクは小さい。

4. 出口戦略において、所有国債の価格低下のリスクに対しては、引当金を十分積んできており、それで対処することが考えられる。

追記:植田先生が日銀総裁に適任だと20年以上言ってますが、報道発表があった時点では雨宮副総裁が総裁になられるとばかり思っていたので、まさか総裁に就任されるとは思っていませんでした。そこで報道を受けて舞い上がってしまい、週刊新潮の取材に二つ返事でお受けしてしまいました。そうすると、以下の有料部分の私の話した内容は正確に記事になっていたのですが、週刊誌の記事や見出し自体、あまり品のいいものではありませんでした。その結果、植田ゼミの同期に散々怒られたので、現在取材は基本受けないことにしています。ご了承ください。以下、週刊新潮に答えた部分や、そのほか経済学者として申し上げたいところを追記します。

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