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【旅の記憶】ペンギンに会いにフィリップ島へ①(Melbourne 6)
申し込んだワンデイツアーで、フィリップ島へ向かう朝。
気持ちの良いカフェで遅い朝食を取る。あの殺伐とした宿のキッチンで食事をするぐらいなら、朝昼兼用の時間帯でちょっとお洒落なブランチといこう、という心づもりだ。
私はゲストハウスのすぐ近くの、トラムストップがあるコーナーに三軒並んだカフェの一軒に入ってみたのだった。日曜の晴れ渡った朝で、すぐ目の前がボタニカルガーデンということもあり、どのカフェも道に並べた席まで賑わっていた。犬を連れた人も多い。
私は初めその道沿いのテーブルに着き、しばらくして先にオーダーしないと誰も来ないと気付いて慌てて中に入った。朝食メニューはとても沢山種類があり、私は悩みに悩んだ末、パンケーキを選んだ。
出てきたのはまさにパンケーキ、シロップ以外は何も付いていない。周りの人が食べている果物やヨーグルト付きのが良かったなぁ、と思うが、二、三ドル惜しんだ結果なのだ。仕方がない。
もちろんパンケーキは美味しかった。水の入った冷えたピッチャーが幾つもラックに並べてあり、好きなだけお代わりできるのも嬉しかった。誰もが楽しそうにそこでの時間を費やしていた。ジョギング帰りのカップル、新聞を広げる近所の老人。
贅沢な時間の使い方でいいな、と思う。時間を大事に、掬い上げるように使っている気がする。
途中で日本人の団体さんが入ってきた。おじさまおばさまのグループである。こんなサウスヤラの朝のカフェにも日本人が出現する。ほんと日本人はどこでもいるものだ。もちろん私もその一人なんだけど。
そして彼等は一番高い朝食メニューを食べていた。羨ましい。でも、私は今後の旅が長いのだ。旅の終わりは、まだ見当も付かない。 少しでもお金を節約しないと。
ぶらりとボタニカルガーテンに入ってみた。私はフィリップ島ツアーまでの時間を潰さなければならなかった。この庭園は広大で、観光する場所も幾つかあったのだが、サウスヤラ側は南の端に当たり、この時間内で行けるような見どころは特になかった。だから私はただぶらぶらと歩いた。
ここにも本を読み耽っている人、花の写真を撮りに来ている人など、様々な人が思い思いの時間を過ごしていた。それに倣ってゆっくりのんびりを心掛けるのだが、どうも上手くいかない。
私は早くもピックアップのバスのことが気に掛かっている。 何にもないただの交差点にバスが来てくれることになっているが、本当にバスは現れるのだろうか? ここからそこまで正確に何分くらいかかるのか?
ああ、私はまだまだのんびりの修行が足りない、などと考えながら、結局カフェの並ぶ通りをピックアップポイントに向かって歩き始めることにする。
その場所は想像よりとても近かった。そして本当にただの交差点だった。そして困ったことに、あの間違いだらけのインフォメーションカウンターのお兄さんが言っていた12時10分という時刻にさえ、まだ一時間はあった。
何せこんな形でツアーに参加するのは初めてなのだ。乗り遅れたら大変と思うのは当然だろう。
さて、困った、ぼんやり待っているのは構わないが、こんな車ばかりやたら通る空気の悪い角で待っているのは楽しくない。私はバスに遅れない程度の距離で再び周辺を探検しに行った。
坂道を下っていくと、こんな車の往来激しい一角に、はっとするほど美しい先塔を持った教会があった。焦げ茶色のレンガ造りで、先塔部分だけがベージュになったシックな造りだ。中を覗き、周囲をぐるりと一周する。
教会の裏手の一角でパーティーのようなものをやっていたのでしばらく眺める。もう少しじっと見ていれば、まあそんなところにいないでこっちに来なさいよ、というようなことにならないでもなさそうだったが、今日は引き返すことにする。
やはり制限時間があるというのは気が急くものだ。たとえそれが野生のペンキンを見に行くツアーの予定であったとし ても。
驚いたことに、バスはあのいい加減なお兄さんが言った12時10分きっかりに姿を見せた。 心配だったのでその時間にはもう例の交差点に戻っていたからよかったものの、これから一体この国で何を信用したらいいのかと一瞬不安になる。
迎えにきたそのバスは小型だったが、ピックアップが済んでシティー中心部のツアーバス集合地点に戻ったら大型バスに乗り換えるという。
ドライバーは三十代後半くらいの親切そうな人だった。バスにはまだ誰も乗客はおらず、私が一番乗りだった。
そしてお昼のゆったりした時間帯を、バスはシティーに向けて北上しながら少しずつお客を拾っていった。
これまでの【旅の記憶】は、以下のマガジンにまとめています。