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【公開記事】「ワム日」が来れば(塔2025年1月号「わたしの休日」欄)
先週まで夏日もあったというのに、今日は底冷えする寒さ。身体の中から温めようと、お湯を沸かしてはコーヒーだのお茶だのを飲んでいる。秋と呼べる日は年々少なくなり「秋の季語」も戦々恐々としているだろう。
やつてきし冬の空間握力に一挙に公孫樹金色がちる
渡辺松男『時間の神の蝸牛』
握り潰されるような冬の圧。そのせいでイチョウが葉を落とすという把握に目を瞠る。
私にとってのイチョウは大阪の御堂筋の並木。以前住んでいたアパートから頑張れば歩ける距離にあった。コロナ禍の間は運動不足解消のためにマスクをつけて一人黙々とウォーキングをしていた。孤独な時間だったが、同じように距離をとって大川沿いを歩いたり走ったりしている人々がいて、同志のように心強く思ったものだ。
その御堂筋のイチョウに電飾が巻かれ、光を放ち始めると、そろそろ「ワム日」がやって来る。「ワム日」とはもちろん「この冬最初にワム!のラスト・クリスマスを耳にする日」のことであり、梅田の地下街から近所のドラッグストアまで、いつ急襲されるかわからないので注意を怠ってはいけない。
「タッタタタッタタ」という例のイントロが流れ始めると即座に「ワム日」認定を行い、その日から私のクリスマス及び年末シーズンが幕を開けるのである。
生き急ぐことはないからシュトーレンまだ残しつつ年越しである
久永草太『命の部首』
こないだ紅白を観たばっかりなのに、また次の紅白が!と毎年嘆いてしまうほど、毎日が目まぐるしく過ぎるけれど、シュトーレンを少しずつ食べるようなゆったりした時間を、せめてこの時期ぐらいは持ちたいものだ。皆様の二〇二五年が良い年になりますよう。
結社誌「塔」で2024年7月号からコラム「わたしの休日」欄を担当しています(奇数月担当)。
ひと月遅れでこちらの記事を公開します。
※前回の記事はこちらです。