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やきいも

先日

非常に心温まる出来事があった



その日は午後
仕事で初めて行くお宅があり
契約のためバイクで移動していた


そのお宅は事務所よりも僕の自宅近くではあるが
あまりいくことがないエリア

道を覚えるためにも色々見回しながら走っていた



小学校が近くにあり
僕が走る道も通学路にあたる様子


ふと見ると
下校中の小学生たちが複数

焼きいもを手にし、
嬉しそうにかじりながら
こちらに向かって歩いていた




へえ、何か学校でのイベントで
みんなで焼きいもしたんかな
おいしそうやな

と思った



そのままバイクで進んでいると

進行方向左手
路肩に停まった軽トラがあった

屋根付きの少し古びた軽トラ



傍に看板が立てかけてあり
「焼きいも」と買いてあった



ええ、珍しい
軽トラで焼きいも売りにきてはるんや

信号待ちでまじまじ見てしまった



軽トラの荷台部分に
何らか蓋付きの銀色のでっかい入れもの
(いも焼くやつ?)があり


その陰から
想像よりもずっと若い兄ちゃんが出てきた




僕と同い年くらいか
少し下にも見える
明るい茶髪



背が高くかなりマッチョで
僕の目測では


一般的な自販機とほぼ同じ厚さの胸板

非常にパワフルな見た目



何食べたらそうなるねん
軽トラよりでかいんちゃうか



そうか、焼きいもか



軽トラに兄ちゃんが乗って来たのか
軽トラが兄ちゃんに乗って来たのか

分からんくらいでかいマッチョ



そして両手には
茶色の紙袋に1本ずつ入った焼きいも


非常に柔らかく、親しみやすそうな笑顔



そしてよく見ると
その陰に小学生が数人並んでいた
兄ちゃんがデカすぎて見えなかった




ああ、みんなここで買ってたんか



距離的に読めないが

グラムあたり何円等と
細かく買いたメニューもある




いや違う


どうもお金をやりとりしている様子はなく
なぜか兄ちゃんは
焼きいもを配っている様子やった



売れ残り?

いやまだそんな時間ではない


とても気になった



契約の帰り道
まだおられたら買おうと思った

美味しそうやし




そうして小一時間
契約等諸々は終わり、週一回の訪問が確定

そして自宅へ帰るためバイクに乗る



帰り道からは少々遠回りになるが
焼きいも屋さんが気になる
遠回りして焼きいも屋さんへ向かう



少し走り
遠目に軽トラが止まっているのが見えた
良かった

小学生の集団はもういないが
焼きいも屋さんはまだ営業している様子



バイクを止め、軽トラに向かう



先ほど見たメニュー表の横に
「本日最終日」の張り紙



なるほど

今日が最後なんや

それで小学生に
焼きいも配ってはったんかな



少し切ない




マッチョ「いらっしゃい」

僕「こんにちは。今日最後なんすね。さっきたまたま通って気になったし寄ったんです」


マ「あぁ、そうなんです」


僕「そうか、残念やな。さっき小学校の子らも持ってて美味しそうやったのに」


マ「そうなんすよ、残りそうやし食べてもらおうと思って」


僕「まだ結構残ってるんですか?」



マ「あと7個ですね」




僕は思った

7個か
僕の家族は5人


しかし焼きいもはみんな好きやし
一番下の子も食べられる




よし全部買おう


この人も
気持ちよく最後の仕事を終えれるかもしれん




僕「ほな全部ください」



マ「え!ほんまですか!」
 「いやもう、欲しい人にタダで配ってしまおうと思ってたんですよ。」


マッチョはゴソゴソと作業を始める




え?

この流れ




くれるやん焼きいも



僕は財布を取り出そうと
後ろのポケットに伸ばしかけた手を
そっと引っ込める



マ「1600円です」 

金取るんかい



いやいや、当然それでいい
元よりそのつもり


僕「はい」


軽「端数おまけしときますね」


僕「あ、ほんまですか。ありがとう」



キャッチャーミット並みにでかい手で
トングを使いこなし

茶色の袋に焼きいもを詰め始めるマッチョ



トングがピンセットに見える



そしてどう見ても
よく入っても4本の紙袋


マッチョは5本目を差し込もうとする



パワーで



マ「この袋5本は入らんか〜、ちょっと袋分けますね」

パワーで差し込む前に気付き給え


マッチョは焼きいも4本が入った袋を
台の端の方に無造作に置く





僕は内心思った



貴様それ

落とすなよ絶対



そしてマッチョは新たな袋を取り出し
残り3本を詰めようとしたその瞬間



案の定

台から落下する芋袋



4本の内
3本が地面に転がる

砂が付着



マ「うわー!どうしよ!もう無いのに!」



当然の結果にも関わらず

ガタイに似つかない
仔猫のような目で僕を見るマッチョ



貴様


案の定やんけ
このクソ雑マッチョが


しかし僕は思った




まあええやろ


元はといえば地面から出てきた芋
砂は払えばいい


2025年の僕は太平洋より心が広い



僕「あー、まあ大丈夫ですよ。食べれるし」


マッチョは大きな身体を小さくして
申し訳なさそうに答える


マ「ほんまに申し訳ないです」


マ「この芋、皮しっかりしてるんで、落としても無傷やとは思いますんで」


は?



その高さから落として無傷な焼きいもて



いも用防弾チョッキでも着せてんのか



もしくはその皮NASAの新素材か?



まあいい

マッチョ屋を後にし自宅へ帰る




そうして焼きいもを持ち帰り袋から取り出す


中身が汚れたりはしていない

無傷ではない


しかしこれがすごくおいしかった
子供達も大喜びやった



お店がなくなったのは非常に残念



次の週
契約したお宅に向かう



なぜか先週と同じ場所にいる軽トラ

遠目に見える
黄色の服を着たマッチョ



クッソ舐めやがってマッチョあいつ



こないだが最終日ちゃうやんけ
いもペテン師めが

皮むいた芋みたいな色の服着て


帰りに寄って
ひとこと言うたろ


そうして仕事を終え
急ぎ焼きいも屋に向かう



先客のおばちゃんがいた

にこやかに応対しているマッチョ



メニューの横に
「本日最終日」の張り紙はない


よし順番が来たら
ひとこと言うたる



おばちゃんは焼きいもを買い終え
笑顔で軽トラを離れる


さあ僕の番



焼きいもは非常においしかったとはいえ
それとこれとは別や
修羅場も覚悟の上

罵詈雑言を浴びせるかもしれん


僕は鋭い視線でメニューを睨み
スマートな歩き姿で数歩進んだあと
鼻息荒くマッチョに声を掛けた




僕「3本ください」

やっぱりおいしかったので許す



マ「ああこないだの!すんませんでした落として」




僕「全然大丈夫、おいしかった」


忍法掌返し



それに対しマッチョは
いも3本落としの重罪を犯したくせに
ニヤニヤしながら話す



マ「今日はまだいっぱいありますよ」



は?




毎週全部買って帰るイモ富豪ちゃうねん


それに先週実は
買って帰り過ぎて嫁に怒られた

僕「いや、今日は3本で」


僕「良い色の服やね」


マ「いもみたいでしょ笑」

やっぱりな

  

その後
自販機マッチョと少し話した

いも配りをした先週

小学生達や、
最後に来られた
優しいお客様に喜んで頂いたのが嬉しく


奥さんと相談した結果
お店をもう少し続ける事にした

とのことやった



しかし来週からは
都合により別の場所へ行くと



めちゃくちゃええ事したやん
最後の男前の素晴らしいお客様
誰?かっこえ




7本も買って嫁に怒られたけどな




イモーショナル

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N氏
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