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書籍紹介&独自考察:「闇と闇と光」

M&Aについてリアルに描かれた、実話に基づくというフィクション小説。
ハリウッド映画のような話だが、昨年から「不適切な買い手」が問題となっているように、M&A市場が成長している中で、相対的にそのような事例は増えていると思う。

今後会社の譲渡を検討する方や、M&Aに関わる方々には勉強になるし、身を引き締めるきっかけにもなると思う。

大きな話の流れと補足が以下。
フィクションではあるが、実話に基づいてということなので、真面目に事象について考察してみる。

  • 主人公は、オーナー経営を務めるA社の経営を役員陣に承継することを考え、その手段としてPEファンドの力を借りることした。
    (補足)PEファンドには投資家であるLP、お金を運用するGPという立場があり、〇〇キャピタルというのは、GPのこと。GPはLPからお金を集めてファンド(資金プール)を組成し、そのお金を非公開会社に投資して企業価値を高めてから売却することで生じるリターンをLPに還元する。GPはこのリターンに対する成功報酬と、お金を預かることに対する管理報酬を受け取る。
    PEファンドは既存の経営陣を活かして経営することが多く、既存経営陣への事業承継手段としては有効と考えられる。
    ※PEファンドの仕組みについては、上場しているインテグラル社の決算説明資料がとても丁寧に説明しているのでオススメ。

  • 主人公はLPとしてGPと共にファンドを組成し、LBOスキームを用いて資金を調達、主人公の株式をファンドにて取得。ファンド資金の大半を自身が拠出していたため、A社の経営権は引き続き自身にあると考えたが、そこに穴があった。
    (補足)LPはファンドに資金拠出して、投資については投資委員会に委ねるという構造から、投資に関する意思決定には投資委員会のマジョリティが必要。投資委員会は多くの場合GPの人員によって構成される。

  • 結果としてGPはA社の経営権を握り、A社のお金もGPに流れてしまう。A社の企業価値は毀損され、GPだけが儲かる構造になってしまった。
    (補足)ファンドが儲けるのというのは投資に対するリターンのイメージを持たれていると思うが、リターンはあくまでLPのもの。LPを儲けさせることで報酬を得るのが GPである。GPの利益がLPの利益に優先されるのは考えられず、それは投資家の支持を失い、仕事ができなくなることに繋がるため。

  • という状態から主人公が如何にして会社を取り戻すか、というストーリー。

本書を読んで重要と感じたのは大きく2点。
①買収企業の選定
②譲渡におけるスキームや契約内容の検討

①に関しては不適切な買い手という問題があるように、問題のある買い手はいるので、それをまずは見極めること。
態度が横柄だったり、話していることに辻褄が合わなかったり、そういう買い手は局所局所で違和感のある一面を見せることがあり、その感覚は思っている以上に大事だったりする。
また、売主の立場としては、話が進んでるのにやめるのはもの凄く難しいことだと理解するものの、その勇気も大事だし、仲介やFAがそれを尊重することもとても大事。

②に関しては、著書のスキームが特殊なので、それ自体はあまり起きることではないと思うものの、契約内容への理解が不十分だと後に問題となりやすい。
投資経験のある買い手と、初めての売り手とでは情報の非対称性が生じやすく、売り手にはそれを補ってくれる専門家が必要。

著書におけるGPの違和感としてはいくつかあるが、その一つがA社がGPに対して支払う年間5000万円ものコンサルティングフィー。
A社がどれだけ利益をあげていたのかは分からないが、ところどころ出てくる数字から推測するに、過大と思われる。
組成されたファンドの規模からして、成功報酬と管理報酬では大きな収益にはならないであろうことから、投資がうまくいかなくともGPは儲かるという絵図を描いたのでは。

また、そもそも何故ファンドが著書のようなスキームを描いたのかも違和感あり。
敢えて主人公と共にファンドを組成してということは、ファンドに投資できるお金がなかったからか。
ファンド資金の調達がうまくいってなかったということは、 GPの投資パフォーマンスが悪かったことが想定され、そこでも買い手としての不適切さが考えられる。
更には、実行されたスキームはPEファンドを咬まさずとも実現できることで、情報の非対称性によってあたかも自分達が必要だと見せ、入り込むことによってその会社の利益を吸い上げることが当初から目的だったのではとも勘繰れる。

GPは投資パフォーマンスの悪さから資金集めができない→ファンド資金が無い= GPの稼ぎのタネがないということなので、A社の話がきたときに著書におけるスキームを考案し、情報の非対称性を用いて実行にこぎつけた、と恐らくこういう流れなのだろう。

著書はあくまでフィクションなので、数字等どこまで整合性がとれているか分からないし、なので私の指摘も的外れである可能性は十分にある。
その前提として読んで頂きたいが、登場するPEファンドには遠かれ近かれ似たような問題があったのだろうと思う。

M&Aは情報の非対称性が問題を起こすことが多いので、その辺りのフォローが十分にできる専門家を選別して頂きたい。

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