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投資回収ではなく、自社グループの評価額、という考え方【M&A日記】

M&Aは、買収側にとっては投資なので、回収を考えるのは普通のこと。
しかし、買収した事業における利益で回収する、という観点だと良い会社を買収するのが難しくなる。
何故なら良い会社は高い、高いと回収期間が長くなる=高すぎる、ということになってしまうから。

そこで、買収後の自社グループの評価額という観点を持つことで、投資目線を合理的に上げられる可能性がある、という話。

中小企業のM&Aにおいてよく活用されている株価算定の方法に、年倍法というものがある。
対象企業の時価純資産に営業利益とかEBITDAとか最終利益とか、何かしらの利益指標に倍数を掛けた額を合算するという方法。
私が特異なサービス業ではEBITDA(減価償却前営業利益)を用いることが多い。
「株価=時価純資産+EBITDA×3~5」みたいになる。
EBITDA×3~5の部分、資産の価値(時価純資産)以上に支払う部分のことを「営業権」とか「のれん」という。

例えば時価純資産が1億円、EBITDAが5000万円だとして、EBITDA5倍で算出すると1億円+5000万円×5=3.5億円となる。
こういう金額で実際にM&Aでは取引されている。

さて、買収側の投資回収を考えてみる。
のれんは2.5億円。
時価純資産の1億円は、1億円のお金と1億円の資産を等価交換しただけなので、これは回収の必要はない。
超過して払っている2.5億円をどう回収するか。

利益の5倍で払っているので5年回収かと言えば必ずしもそうはならない。
税金がかかるため。
EBITDA5000万円で、減価償却費が1000万円あったとすると営業利益は4000万円=税引き前利益と仮定すると、実効税率33%で1320万円ほどの税金がかかる。
EBITDA5000万円からこれを差し引くと3680万円、これが対象会社の営業キャッシュフロー。
2.5億円÷3680万円≒6.8、回収に6.8年かかるということになる。

買収検討する企業が直営店を出店する際には3~5年の投資回収で想定していたとすると、6.8年回収は長すぎるね、となって買えない。
良い会社ほどEBITDA×〇という〇の部分が大きくなる、即ちその分だけ投資回収が長くなるので、良い会社ほど高くなって買えなくなる。

そこで投資回収ではなく、グループの評価額という観点で考える。
EBITDA×〇の〇の部分は先述の通り、良い会社ほど大きくなる。
例えば買収側の時価純資産が10億円、EBITDAが5億円とすると、この会社はにはEBITDA×7というような評価がつく可能性がある。

なので、時価純資産10億円+EBITDA5億円×7=45億円=グループ評価額。
ここに先の例の純資産1億円、EBITDA5000万円の会社を招き入れるとする。
するとグループの時価純資産は11億円、EBITDAは5.5億円となる。
再度グループ評価額を計算すると、時価純資産11億円+5.5億円×7=49.5億円となる。
買収に支払ったのは3.5億円なので、3.5億円を払ったことでグループ評価額が4.5億円増えたことになる。

上場企業株の場合はなかなか卓上の計算通りに株価は動いてくれないが、未上場株の場合は実態としてそのように評価される可能性が高い。
なので、いずれ自社のEXITも可能性があるとすれば、自社グループに対する評価と、買収する会社の評価におけるギャップを活用することで、結果的に買収によって自社グループ評価を高めていける可能性があるのだ。

高値で実際に買収している企業は、このように考えている可能性がある。
もしくは、今は5000万円のEBITDAだけれども、自社グループで成長を加速させることでEBITDAを1億、2億と増やし、結果的に回収期間が短くなる計画を考えているかの何れかだと思われる。

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