Laboの男65
Labの男65
ビルの最上階
火が灯るようにぽつぽつと
間接的にライトが点灯している。
隅々まで届かないやわらかな光がより一層
空間の広さを強調する。
少し紫がかった空の本町町をバックに
独りの男が立派な椅子に腰かけている。
責任を肩代わりしてくれそうな
重厚な背もたれに身体を預け
腰掛ける男を豪華な革張りがゆったりと包み込む。
アームレストに肘を預け
こぶしで頬杖をつき眉間にシワのオールバック。
男は考え事をしてるのか微動だもしない。
間接照明がいい具合に男の顔に影を差し込み
ルームを彩るオブジェなのかと思えるほど
部屋の情景に溶けこんでいる。
広がりを感じる空間には
無駄なモノが一切置かれてなく
仕切りがあるのに丸見え
すべてがガラス張りで全体を見渡せる。
手入れがいき届いたガラスのせいで
目の前にあるのかどうか分からない
見えない壁に囲われたCEO室。
シンデレラのガラスの靴ならぬ
全ガラス張りの部屋へと連なる
ぶ厚いガラスが壁に突き刺さった様な
デザインのガラスの足場。
まるでのぼり詰めるとは
かくも危ういものかと思わせる1本道の階段
宙を歩いてるように見える階段を
一歩一歩と上がってくる人影。
コツ コツ コッ
黒髪をなびかせ不機嫌な唇
黒スーツの女
「あまり、感心できないな。
他人の畑まで荒らすのは。
現在、成り上がり街道まっしぐら。
SOMA Farben Konzern
【ソーマ ファルベンコンツェルン】
CEO 走馬 灯吉【とうきち】」
オブジェの様に動かなかったオールバック
走馬 灯吉が口をひらく。
「いつもなら友人が来る時間帯なんでね。
なるべく手短かに済ましてくれると
助かるんだが〜、キミは誰かね?」
「あ〜ぁ、我が社の生きるレジェンド
ジェイソン楠木の事?
彼も同じく現役だったな。
まぁ〜誰でもいいじゃない。
今日はクギを刺しに来たんだよ」
「なんの話かな?」
「色々と聞いてるよ。その身ひとつで
一代で企業集団の財閥
コンツェルンまでのぼり詰めたんだからな!
大したもんだよ」
「キミは勝ち気な営業なのかね?」
「ただ、一代でのし上がったのは
そうだろうが
果たしてその身ひとつで
ってのは疑問だなぁ?」
「私の兄弟のことを言っているのかね?」
「いいや!あれ兄弟じゃないだろ?」
「…………ん?」
「お前には兄弟はいないよ。
社会的な設定ではそうかもしれんが
あれはお前のクローンだろ?」
「別にそれをとやかく言いに
来たわけじゃ〜ない。
一般人が軍部と関係を持つなと
忠告にきたんだよ」
再びオブジェに戻るオールバック走馬。
「違法に神経ガスを精製してないか?
【怒れるパープル】
アレは君が扱うには過ぎたシロモノだ!
四の五の言わず手を引け!」
オールバック走馬は黒髪女の顔を伺う。
言っている内容と顔色をだ。
「独りの人間がのし上がれるには限界がある。
そのために組織に属したり路頭を組む。
世の中に影響を与えるのは大いに結構
エビス薬品工業は関与しない。が!
住み分けがあるんだよっそれ相応のな。
縄張りをけっして荒らしてはいけない」
表情がみるみる抑圧された顔となり
ただのオールバックじゃ無くなっていている。
「別に脅しに来たわけではない。
わかるか?ただの忠告だ。
用はそれだけなんだよ。
もう一度言うぞ。
他の畑を荒らすな!
たとえそれが国の依頼であってもなっ!
ちゃんと2回言ったからな。
じゃ〜な。お前クローンだろうから
ちゃんとオリジナルにも言っとけよ」
あっさりと振り返りそのまま立ち去ってく来栖
しかしまぁ〜趣味の悪いデザインだなっ
全部ガラス張りってちょっと卑猥すぎないか?
成り上がりってのは一種の田舎者だから
舐められない様にカッコ付けるから
ダサいんだよな〜。
もっと趣味を磨いたほうがいいぜ。
ただこれだけで出向くの味気ないつうの。
まぁ〜上からの御達しだから仕方ないけどよ。
折角だからどっか寄ってくか。
不満がそのまま出てしまっている。
クローンオールバックの耳にも届く声の大きさだ。
SOMA Farben Konzern
【ソーマファルベンコンツェルン】
ソーマ 走馬 灯吉
ファルベン 色彩 多彩 色合いを意味する
コンツェルン 独占的巨大企業集団
走馬 灯吉がCEOを務める。
日本には財閥があり企業は自由奔放にできない感があるが一代で鉄工所から企業集団
コンツェルンにまで、のし上がった人物。
それを可能としたのは走馬と三位一体の
2人のクローンがいてこそだ。
クローンといっても同じ生命体ではない。
同期しているわけではないので
個人として生きようとする。
その心を
全員がオリジナルであると束ねたのは
相馬 灯吉の手腕だ。
一本の矢では容易に折れるが
三本まとめてでは折れにくいことから
結束を説いた三本の矢の逸話があるが
それを自で行ったのが走馬コンツェルン。
一代では成し得ない成果を納めたのは
3人の手柄である。
教訓は毛利家の結束を説いたが
矢に関する記述は一切歴史書にはない。
どれほど大変なことかというと
各種産業部門の独立企業を統括・支配する
独占的巨大企業集団。企業結合の最高の形態。
スタイルで言うと財閥形式。
日本の財閥は
コンツェルンの日本的形態として有名である。
すでにある財閥を退けて
新たな財閥を創設に至るのは至難の業だ。
反独占政策が強化される一方
技術変革の進展による産業構造の変化によって
剛構造的な構造をもつ持株会社方式による
コンツェルンよりも弾力的な結合体である
インタレスト・グループのほうが適応しやすく
しだいにこの方向へ移行する傾向が生じている。
ゴリ押しの剛腕では回らなくなってきた。
日本の企業集団は戦前における
剛構造的な財閥コンツェルンから、戦後
より柔軟なインタレスト・グループ的形態への変化そしてシフトしている。
1人では無理を通せない×3
オリジナル顔負けの3人での剛腕も
もはや時代代わりに追いつけてない
SOMA Farben Konzern。
結束よりも今や柔軟性を求められる時代となった。
招かれざる客、来訪者アイアン来栖
探訪から数時間後
ちっとも歩みを止めないジェイソン楠木。
高層ビルのエントランスを通ってから
かれこれ15分は歩きっぱなし。
それもそのはず緊急事態で
エレベーターの運行は停止中
階段での
「ジェイソン楠木
このビルに何の用なんでしょうかね?」
「これまでの会社訪問とは違って
ポッと出の会社員では
来れない敷居の高さの会社だ。
まぁ、今は緊急事態だから
サクサク入ってはいけてるけどな」
「なんでこの本宮町に
この高層ビルなんでしょうか?
目立って仕方がないじゃないですか?
良い意味でも悪い意味でもね」
「それは
大雑把にヒトから信用を得るには
分かりやすく単純なほうが
伝わることがあるんだ。
世の中にあるすでに信用されている
モノを間借りするんだ」
「例えばこの本宮町
この場所にビジネスを構えているのは
それ相応の会社に違いない。
本宮町には歴史がある。
まずはその歴史を利用する。
そしてこの場所には見合わない高層ビル
ビルの高さが素敵なビジネスを
続けた結果だと錯覚させる。
ビルのデザインが会社を体現しているかは
それは知ったことか?
勝手にいい風に想像してもらうのを利用する」
「中で働いてる会社員たちの人格まで
ステイタスが上とも限んないだろ?
あってないようなものさ」
「明智からしてみれば
こんなの見かけ倒しだ。
中身はどうだかはわからんだろ?」
「さすが!明智さんっ!
カッチョい〜い」
やはり明智は万次郎の
勝手な憧れをサラリ満たす。
「もしかして最上階まで行っちゃうのかね
もう勘弁してほしいなぁ〜」
「明智さんっ
ボク来栖さんにしごかれた
じゃ〜ないですか。
もしかしたら
少し体力がついたのかも知れません。
まだいけますもん」
「おおっ、もうただの一般大学生じゃ〜
なくなって来てるな。
テクニシャンエージェント48!
万次郎フォーティーエイト!」
「もぉ〜
四十八手の48は付けないで下さいよ〜
テクニシャン止まりにしておいて下さいよぉ
何のテクニックかなぁで終われたでしょ〜よ」
ぶっはははは
「あぁ、静かにしないと気づかれますね」
「やっこさんがジェイソンだから
段々となんでも大丈夫だと
マヒしてきたな。
気をつけないとな」
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