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少年を踏み潰す「車輪」の正体とは?ヘルマン・ヘッセの『車輪の下』④

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今月は、ヘルマン・ヘッセの『車輪の下』を取り上げます。

『車輪の下』とは、ドイツ語で『落ちこぼれ』という意味で、ヘッセ自身の学生時代の体験が投影されている自伝的小説です。

一人の少年の人生が周りの大人たち(社会)の期待に踏み潰されてしまった悲劇が描かれます。

受験戦争の過熱した現代の私たちにも、必要な教訓が含まれているかもしれません。



『車輪の下』―周囲の期待?大人の利己心?少年を踏み潰す「車輪」の正体とは?


ヘルマン・ヘッセ(1877~1962)

ドイツの詩人、小説家。
牧師の父を持ち、自らも神学校に進むが退学。
転入した高校も退学し、町工場などで働く。
十八歳で書店見習いとなったことをきっかけに、文筆活動をスタート。
二十代後半には人気作家となる。
仏教などの東洋思想にも造詣が深く、晩年は老荘的な生活を送る。
1946年、ノーベル文学賞を受賞。

代表作品:『郷愁』『青春は美わし』『デミアン』『知と愛』『シッダールタ』『ガラス玉演戯』など


【書き出し】

仲買人、兼代理店主、ヨーゼフ・ギーベンラート氏は、同じ町の人にくらべて、目だつようなすぐれた点も変わったところも、べつに持ってなかった。

みんなと同じように、恰幅のある丈夫そうなからだつきで、商才も人なみだった。

〈高橋健二 訳『車輪の下』(新潮文庫)より〉


【名言】


疲れきってしまわないようにすることだね。そうでないと、車輪のしたじきになるからね。

あの連中も、あの子をこういうはめに落とす手伝いをしたんじゃ。

きみはどんな勉強でも好きですすんでやっているのじゃない。ただ先生やおやじがこわいからだ。


※あらすじはこちら⇓⇓


解説①はこちら⇓⇓



【解説②】

『車輪の下』を自伝的小説として書いたと言われているヘルマン・ヘッセ。

一体どのような体験があったのかを調べてみました。



主人公ハンスと親友ハイルナーの二人は、どちらもヘッセの投影


1891年、ヘッセは『車輪の下』の主人公・ハンスと同じように、過酷な詰め込み教育による受験勉強の結果、名門のマウルブロンの神学校に入ります。

しかし、途中から「詩人になるのでなければ、何にもなりたくない」という気持ちが抑えられなくなったそうです。

悩んだ末に、入学してからわずか半年で神学校から脱走。

その後は、不眠症とノイローゼに苦しみ、退学することになります。

『車輪の下』の主人公・ハンスと、詩・文学を好み神学校から脱走する親友ハイルナー。

この二人は、どちらも若き日のヘッセを投影した人物であるといえそうです。



主人公・ハンスと作者・ヘッセの違いは、母親の愛情?


ヘッセはその後の転入学もうまくいかず、十七歳で町工場の見習いとなります。
ここまでの境遇はほぼ、『車輪の下』のハンスと同じ。

自滅するハンスとヘッセの違いは、どうやら母親の愛情にあったようです。

幸いにして、ヘッセには、愛する息子のために祈り続ける母親の存在がありました。

自分を信じてくれる母親の存在があったからこそ、ヘッセはハンスのように死を選ぶことなく、立ち直ることが出来たのだと思います。


その後、書店の見習い店員となったヘッセは、徐々に安定し、詩集を自費出版。

文学者の道を歩み始めます。



『車輪の下』はなぜ多くの人に読まれるようになったか?


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