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外資系翻訳あるある・100%同じ意味の言葉は他の言語にはない(と思ったほうがいい)

いろいろな解釈はあるようですが、世界には現在 7,000 ほどの言語があるそうです。インターネットを通じて世界中で起こっていることが瞬時にわかるような時代では、ある言語で表現されていることは、若干の説明が必要な場合はあるかもしれませんが、基本、別の言語でも表現できるはずです。

一方、すべての言語に同じ意味を持つ単語があるわけではありません。

例えば、英語の "ocean" や "sea" を日本語に訳す時、本当に「海」でいいのか?逆に、「私は…」「俺は…」「儂は…」を英語に訳すとき、本当に "I"でいいのか?

「似たような意味を持つ言葉」はあるものの、100% 同じ意味を持つ単語を探すのは難しいのではないでしょうか。

また、言葉には文化、習慣、歴史などの背景があります。例えば意味的にはほぼ同じ言葉だとしても、それを聞いたときの受け取り方は、言語によって違うでしょう。

例えば、英語圏の人が  "spring" という言葉を聞いたときに思い浮かべるイメージと、日本人が「春」と聞いて思い浮かべるイメージは一緒でしょうか?桜、新学期、新生活、といったイメージは、きっと日本人独特のものです。また、「私は…」と聞いたときと「儂は…」と聞いたときの印象は間違いなく違いますよね。

では、話の内容を見た上で、その内容に合わせた適切な訳をすればよいのか?というと、それほど単純でもありません。もしかしたら、オリジナルの作品の中で、最初は性別や年齢、その人の雰囲気を隠しておきたくて、あとでそれがわかる仕組みになっているかもしれません。それなのにいきなり「儂は…」などと訳してしまったらいきなりそれなりの年齢の男性だということがバレてしまいます…。

基本、私のnoteではソフトウェア、ウェブなどの訳の話をしていますし、小説などの翻訳はソフトウェアやウェブのように細切れで訳すことなどはないでしょうから、上記のような心配は余計な心配ですけれどもね…。

言いたいことは、究極的には筆者にどういう意図で文章内の単語を選択したのか?を一語一語確認しなくてはいけないくらい、オリジナルの文章の意図を完全に訳すことは難しいと思う、ということです。

しかしそこが言語の面白さであり、翻訳の妙だと思います。それこそ、もし他の言語に 100% 同じ意味を持つ言葉があるのであれば、機械翻訳で完璧な翻訳できることでしょう…。

言葉遊び

このように、オリジナルの言葉に適切な訳語を当てはめるだけでも神経を使うわけですが、さらに条件が厳しい場合もあります。それはオリジナルの内容が「言葉遊び」をしている場合です。3 つの例をあげたいと思います。

韻を踏む

日本では詩などで韻を踏むという文化はあまりなかったと思いますが、ヒップホップなど音楽の世界ではかなり普通のことになっていますね…。翻訳を行う中で韻を踏むという制約があるのは、至難の技です。

これの好例は、インテルが長年使っているコピー "Intel Inside" だと思います。どちらの言葉も "in"から始まっていて、リズムのあるコピーになっています。その日本バージョンはご存知「インテル入ってる」。「てる」で終わる単語の繰り返し。

ところで、このマーケティング施策、もともと日本のインテルが始めた「Intel in it」を本社が "Intel Inside" にして全社展開したものなんですよね。となると、このケースの場合は日本語の韻を、英語の訳でも意識したということなのか?それとも Intel in it 、インテル入ってる、を作ったときに、どちらの言語でも韻を踏むことを日本側が意識して作っていたのか?どちらなんでしょうねぇ…。

二つの意味を持たせる

掛詞というと高尚な感じですが、「その手は桑名の焼蛤」とか「当たり前田のクラッカー」なんかもそうですよね。「桑名」と「食わな」、「(当たり)前だ」と「前田」と、一つの言葉に二つの意味を持たせる手法です。また、みんながよく知っているフレーズを少しだけ変えたコピーを使うことで、オリジナルの内容との違いを楽しむ、といったこともあります。

USPS(United States Postal Service)(アメリカ版日本郵便)が長年使っているタグラインに "We Deliver for You." (私たちはあなたのために届けます)があります。そんな USPS がクリスマスの頃だけに使っているタグラインが、"We Deliver for Yule."。Yule はクリスマスということなので、クリスマスのために届けますという意味になって、普段は You なのにクリスマスの頃だけ Yuleになる、You と Yule は音的にも似ている、そんなお茶目な違いを楽しむ趣向なわけですが、元ネタがわからないとまったくその面白さが分かりません。

ラッキーなことに USPS のタグラインを日本のために訳す必要は今後もたぶんないと思いますが(笑)、この手法は上記のように元ネタの方が日本で知られてないとなると、本来の面白さがまったく表現できない訳になってしまいます。

ダジャレ 

駄洒落というとくだらないシャレという感じに聞こえてしまいますが、スタイリッシュ(?)なコピーに出てくることもあります。

私がいろいろな意味で衝撃を受けたコピーの一つに、アップルが MacBook Air を発表したときに使ったもの、"Thinnovation" があります。Thin と Innovation を組み合わせた造語ですね。かっこいいのか、ダジャレなのかは正直微妙なところです…。これ、日本のサイトでは「一枚の、イノベーション」となっていて、この造語は活用されていませんでした。

もしこの造語の感じを活用して訳すとしたら、「薄いノベーション」でしょうか…。でもやっぱり日本語だと完全にダジャレに聞こえてしまいますね…。一生懸命考えたらもっといい訳があるのかもしれない…(笑)。

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というわけで、言葉遊びを残して訳すという作業はとても大変で、そこにはこだわらずに訳すことが多いわけですが、(インテル入ってるのように)ピタッとうまくはまる訳が見つかれば、その爽快感、達成感はなかなかのものです。




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