外資系翻訳あるある・直訳は万能ではない
この問題をシェアしたいと思った理由。これはとにかく、外資系の会社において、「なぜ翻訳の重要性が本社側で理解されないのか」という疑問につきます。実際に多々そう思わざるを得ない経験をしてきました。
重要な文章の翻訳
もしかしたら、みなさんが働いている会社でも、ブランドブックであるとか、クレドであるとか、会社のミッションステートメントといったものがあるかもしれません。これを作るときのその言葉の選び方といったら、それはそれは注意深く適切な言葉を選んでいく大変なプロセスです。
ちょっとしたメッセージの違い、トーンの違い、単語の違いのバリエーションをユーザーに見せて、反応を調べる、といった調査がおこなれます。
これが外資系の会社の場合、当然ですが、本社がある国の言語で行われます。そして、その言語で完成させ、各国語版へと翻訳されます。
会社によっては各国のマーケティングが内容を確認した上、微調整をします。それをまた本社のある国の言語に逆翻訳して、承認をとります。
まず一つ目の疑問は、オリジナル言語ではユーザー調査までして細心の注意を払って行うメッセージの言葉選びが、翻訳した後で行われないというのはどういうことなのか?ということです。もちろんユーザー調査はお金のかかることですから、すべての国で行うのは非現実的です。けれど、そこには言語を超えたコミュニケーションへの理解不足があるのではないかな、と思います。
しかも、頑なな会社は一言一句完璧な翻訳をしようとして、変更を拒んだりします。
「え、言ってたことと違わない?完璧な翻訳しようとしてるじゃん。」と思われるかもしれません。一語一句完璧な翻訳をしたほうがいいのではないか?と。
重要なのは、完璧な直訳は必ずしもオリジナルの文章が伝えたい内容を保持できるとは限らない、ということです。「意訳」という言葉がありますが、原文の言いたいこと、伝えたいことを守るためには、一語一語の訳にはこだわらないほうがいい場合もあるわけです。
例えば、アメリカンエクスプレスの昔のタグライン "Don't leave home without it"は、日本では「出かける時は忘れずに」でした。直訳したら「『それ』なしで家を出るな」ですよね。英語のタグラインだと、その会社や製品・サービスなどを想像させるような代名詞が入ってることがけっこうあるのですが(ナイキの"Just do it"やマクドナルドの"i'm lovin' it"にも入ってますね)、日本語だとちょっと違和感あります。ちなみにアメックスの現在のタグラインは"Don't live life without it"にアップデートされていて、日本では「そう、人生には、これがいる」となっていて、引き続ききちんと日本語としてこなれていますね。
頑なな直訳しか認めないという会社・組織に出会うと、「ああ、各国のマーケティングの担当者を信頼していないのかな」と思ってしまいます。
オリジナルの言語であそこまで時間と労力をかけて作ったメッセージが、翻訳版になるととても軽く扱われていることが多いのは、悲しいことです。
製品UI・ウェブサイトのローカリ
会社の重要なメッセージでさえこういう状況であれば、ソフトウェアなどの製品ローカリや、ウェブサイトのローカリでは問題は尚更深刻です。
大抵の場合各国のマーケティングが製品内の翻訳をレビューすることはほとんどなく、翻訳者が大量の翻訳を黙々とこなしていくことが多いと思います。しかもこの翻訳者、社員ではなく外部の翻訳業者を使うことも多いです。翻訳者の方を信頼していないわけではなく、きちんと会社の思いを理解していただいている方なら問題ありません。ちなみに私が Evernote にいた時代は大部分は日本チームの社員が翻訳していた(というか、自分もだいぶ訳しました…)ので、とっても安心でした。
しかし、いくら会社の方向性を理解していても、翻訳がうまくできない決定的な理由があるのです。そしてこの問題は翻訳プロセスを読み解いていくと、見えてきます。(つづく)
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