安売りで集客の問題が解決しない決定的な理由とは?
どうも!ブランドコンサルタントの中江です。
今日のテーマは「安売り」ですね。
今週ですね。仕事で京都に何泊かしてたんですが、その時にふらっと立ち寄った本屋で見かけたのが『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』という書籍でした。
この本で紹介されていたのが、「飯田屋」という料理道具の専門店のV字回復のストーリーで、かつ今回のテーマの「安売り」ということと非常に密接に関連していたので、今日は、この料理道具専門店の飯田屋を取り上げつつ、話していこうと思います。
1.「安売り」で集客の問題が解決しない理由とは?
という時に、ファーストステップとして、何から変えていくべきでしょうか?
答えは、様々あるでしょうが、最もやってはいけないのは「値下げ」です
特に、個人事業主や、中小企業の場合、この「値下げ」という手段を使って、集客数のアップを狙うと、地獄を見ます。
飯田屋もそうでした。
飯田屋は、1912年創業された、東京・浅草のかっぱ橋商店街に店を構える、料理道具の専門店です。
現在は、6代目の飯田 結太さんが、社長を務めています。
飯田屋は元々、障子や襖やガラス扉を扱う店でしたが、3代目の時に
と困っていた精肉店のために道具を販売して、これが大ヒットし、業績を伸ばしてきました。
ですが、その後、大型スーパーマーケットの進出とともに、商店街が衰退し、精肉店の数が減り、店自体を飲食店へと変えるところが増えたため、飲食店専門の道具店へと業態をシフトさせます。
ですが、1997年には3億7000万円あった売上は、2009年には1億円近くまでに減少するなど、業績の悪化は止まりません。
5代目の母親が落ち込む姿を見て、息子の結太さんは入社を決意します。
飯田屋がある、浅草かっぱ橋商店街は、飲食店や料理道具の専門店が集まる商店街です。
そんな競合がたくさんいる中、どうすれば、多くのお客さんに足を運んでもらえるのか?
店に足を運ぶプロの料理人を観察すると、商品の価格をメモする姿が目に止まります。
その光景を見て
と思い、リサーチをして、どこよりも安い価格をつけます。
ですが、集客数は変わらず、価格を下げた分、利益はさらに減り、売上が激減します。
さらに、どこよりも安い価格を実現させるために、商品の品質を下げることになります。
これまでは国産の丈夫な道具を扱っていましたが、それが質の低い、韓国産、中国産の道具だけが並ぶようになり、買ったお客さんから大量のクレームが殺到し、常連客の信頼も失いました。
このように「安売り」で、集客の問題を解決しようとすると、本当にロクなことがないんですよね。
確かに、「安売り」で、一時的に新規集客の問題は解決できる可能性は0ではないですが、個人事業主や中小企業が、その路線で勝負しようとすると、規模が大きい企業には、絶対に勝てません。
1990年以降、大型家電量販店の登場によって、街の小さな電器店は姿を消したのも、価格では勝てなかったからです。
大型家電量販店は、街の小さな電器店とは比べられない量の商品を一度に仕入れることができるので、仕入れ値を圧倒的に抑えることができ、価格も大幅に下げることができるのです。
同じ商品を売ってるなら、「安い方」を買おうというのが、自然な流れであり、だからこそ、街の小さな電器店は姿を消しました
仮に、大手と同じレベルで、価格を下げたとしても、商品・サービスの質が下がるので、リピート顧客が生まれません。
常に新規顧客の集客に奔走しないといけなくなりますし、顧客一人あたりの利益も減るので、より集客数を増やさなくてはいけなくなるので、事業はずっと苦しいままです。
それに「値段」に訴えて、集めた顧客は「値段」で、簡単に去っていきます。
同じような商品・サービスをもっと安くで提供しているところが見つかれば、簡単にそっちに移ってしまうのです。
2.「安売り」を抜け出すために
だから、集客の問題を解決するには、「価格」以外の部分で、魅力を作り出す必要があります。
その際に最も重要なのは、ブランドコンセプトの変更です。
ブランドコンセプトとは、一言で言うと、ブランド全体の価値の方向性です。
料理道具の専門店と一口にいっても、さまざまな価値の方向性があります。
飯田屋の場合は
という価値の方向性の時期もありましたし、結太さんが改革を行なった際には
という時期もありました。
ブランドコンセプトは、この場合、「どんなお店なのか?」を定義づける、言葉だと思えば良いです。
人は、ブランドの存在を認知した際に、必ず、意識的にも無意識的にも
という価値の方向性を認識しようとします。
というのも、他に、同じような店はたくさんあるからです。
かっぱ橋商店街なんて、飲食店で使える料理道具が揃っているお店ばかりなので、これを認識しなければ、自分が必要としているお店を識別することができないからです。
ブランドコンセプトで重要なポイントは、希少価値です。
つまり、ブランドのターゲットに求められていて、かつ、市場では少ない、珍しいポジションを取れるかどうかが大切です。
この両輪が大切で、どちらかが欠けると、ブランドコンセプトの魅力は低くなり、集客に苦戦してしまいます。
飯田屋が集客に苦戦していたのは、まさにこの条件に当てはまっていなかったからです。
というブランドコンセプトは、凡庸で、ユニークではありません。
そんなお店は、かっぱ橋商店街を見渡しても、たくさんあったからです。
は安さという観点からすると、ユニークかもしれませんが、プロの料理人は、すぐ壊れてしまう質の低い料理道具が欲しいわけではありません。
飯田屋は、こっから奇跡のV字回復を遂げることができるようになったわけですが、これは、ついにこの両輪が揃ったブランドコンセプトが見つかったからです。
転機となったのは、ある割烹着姿の料理人が来店したことでした。
その料理人は、棚にあるおろし金を見て
と聞いてきました。
それまで、結太さんは、安く売ることにしか関心がなくて、商品知識もなく、実際にそのおろし金を使ったこともないので、答えられませんでした。
当時は、来店するお客さんが少なく、時間もあったので、店に置いてる3種類のおろし金で、大根を実際にすってもらって、試してもらいました。
その時に、その料理人のお眼鏡に叶うおろし金はなかったのですが、帰り際に
と、言われました。
そこで、料理道具のカタログを開き、Amazonのレビューも参考にしながら、12種類くらいのおろし金を取り寄せて、大根をすってみて、食べ比べました。
すると、明らかに、あるおろし金が「フワフワ」の食感だったことに驚きます。
これまで「料理道具なんて、どれを使っても大差ない」と思っていた価値観が一変します。
そして、お客様にすぐに連絡して、大根おろしを食べてもらうと
と、今までの接客で見たことがない満面の笑みで、言ってもらったそうです。
そして、驚いたのが、会計の時でした。
かっぱ橋商店街のお店のレジ前は「値切られるのが当たり前」の戦場です。
そのおろし金は、5000円でした。
これまで飯田屋で扱ってたのは、一番安いもので980円。
最も高いものでも1980円だったので、それよりも遥かに高い値段でした。
「高すぎる!」と怒鳴れるのではないかと不安でしたが、
と1円も値切らずに、笑顔で「ありがとう。また来るな!」と言って帰っていきました。
高いものに喜んでお金を払い、笑顔で帰っていくお客さんがいるんだと、大変驚いたそうです。
そして、安売りに限界を感じていた、結太さんは、改めて、どんなお店にしたいのかを考えます。
そこで出てきたのが
ということでした。
お客様は「これが欲しかった!」と思えるものは一切値切らずに、喜んで買ってくれます。
それなら「お客様が欲しいものがいつでも揃っている店になろう」という思いがでてきました。
今の飯田屋の人気の秘密は「品揃え」です。
普通の専門店では考えられないくらいの種類と質の高い料理道具が揃っていることです。
例えば、フライパンだけでも用途別に200種類あったり、おたまも1cc単位ごとに用意していたりして、商品は合計で8500種類もあります。
これだけ商品点数があると、2~3年に1個しか売れないものもありますが、飯田屋はたった1個から商品を仕入れることができるので、在庫回転率も気にする必要がありません。
どんなお客さんが来ても
と言ってもらえる店になるためには、品揃えが必要だからです。
また、飯田屋は、発注から納品までの時間が短いので、仮に在庫がなくても、当日の17時までに注文すれば、翌朝の開店前には商品が揃います。
「1個在庫・多品種展示の店」に変わったのです。
商品ラインナップは、料理道具だけに絞り、顧客層が飲食店の経営者だけでなく、一般の消費者にまで広がったことで、業績が劇的に回復していったというわけです。
「価格が高いから、集客ができない」という訳ではありません。
飯田屋のように、価格が高くても、それに見合うだけの価値が提示できていれば、お客さんは喜んで買っていきます。
安売りに未来はありません
そこから抜け出すためには、まずはブランドコンセプトを見直すことが大切です。
このブランドコンセプトの作り方については、以下のブログ記事で詳しく話しているので、ぜひそちらを参考にしてみてください。
最後に
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございます。
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