ベトナム女子がバサマ純度100%の温泉に入ったら津軽の洗礼を受けた話。
私が住んでいる奥津軽、中泊町。近くに津軽鉄道の駅「津軽中里駅」があるものの、二時間に一本くらいしか電車が走らずアクセスが良い場所とは言えない。
しかしこのような不便な場所にもベトナムから働きに来ている技能実習生が住んでいる。
平均気温が27度と一年を通して温かいベトナムから来た彼女たちにとって奥津軽の冬の寒さは尚更厳しいものであろう。地吹雪の日も出勤し懸命に働いて心と体は冷え切ってしまっている。しかし津軽にはゆっこ(温泉)というものがある。
私が津軽に来て驚いたことといえば津軽の日常に温泉があることである。出身地・横浜市に住んでいた時にもたまに銭湯に行くことはあったが、温泉は旅行で行くような特別なものであった。津軽には銭湯がほとんど無い代わりに温泉が様々な場所にある。
そして温泉がただの体を洗う場所というよりも共同体として機能している事に驚いた。地域にもよるが温泉に入ることよりも、温泉で人と話をすることを目的にしている人が多くいる。
中泊町中里地区の老人福祉センター内に温泉があるが現在は機械の故障により銭湯として運営している。2024年には新しい温泉施設が出来る予定があり完成が楽しみだ。
私の友人の20代ベトナム女子 アーちゃんとクーちゃんは温泉に入ったことが無いというので、一昨年出来たばかりの綺麗な温泉を求めて車で30分程の離れた場所に連れていくことになった。
温泉に着き「女」と書いてあるのれんをくぐると、そこには多くのバサマたちがを裸体を振るわせ体を拭いたり、着替えたりとひしめき合っていた。
ベトナムには裸で温泉に入る文化がないためか、アーちゃんとクーちゃんは無数のバサマ裸体を見て衝撃のあまり爆笑していた。さっそくの洗礼に動揺する彼女たちに「大丈夫、皆おばあちゃんだから」と謎の理由でなだめて私は先に浴室に入った。
温泉に入ったことがない友人は、温泉での暗黙のルールのようなものを知らない。温泉に入る前に「まずシャワーを浴びなきゃいけないんだよ」と教えシャワーを浴びさせた。
クーちゃんが洗い場の曇っていたガラスに水をかけると、肌が削れるのではないかという勢いで垢すりをするバサマと、平然と垢すりをされるバサマの姿が映っていた。
バサマ同士で毛づくろいする光景は津軽ではレア度☆レベルのごく日常的な光景である。その光景に友人らは爆笑しており、「笑いのツボも文化によって異なるのだな~」と痛感した。
そして温泉に入ろうと見渡してみれば、バサマたちがプカプカと湯っこに浸かりながら喋っている。
平均年齢75歳の湯の中に、若い外国語を話す女の子がくればもう注目の的である。湯に浸かると先に入っていたバサマたちが「これは新種の生き物なのか」と言わんばかりにベトナム人女子二人を凝視してくる。
そしてバサマの一人が口を開く、
という外国人にまったく配慮の無いごりごりの津軽弁で質問してくる。
「この子たちはベトナムから来たんだよ。今日初めて温泉来たんだよ」と私が代わりに答えると。
「あら~、温泉良いべ!あと何年日本に住むの」とバサマが喋ると聞き取れたらしく
「あと1年。でももっと日本居たい」とクーちゃんが答えた、
「どうして。ベトナムさ帰りたいべ」と聞くバサマに対し
「今ベトナムコロナいっぱい仕事ない。お金欲しいから」
という彼女の切実な回答。
そしてバサマ
そして、全バサマが笑った。
バサマ...本当はそれが言いたかっただけだべ!と内心思ったが、アーちゃんもクーちゃんもバサマの津軽ジョークに屈することなく、一緒になって笑っていた。
湯っこから上がって、脱衣所に行くと今度はまだ着替えている途中のバサマが話しかけてきた。
まさにバサマの口に戸は立てられぬ。まだ風呂にも入っていないのにどうして噂が広まるのがこんなにも早いのだろうか。
もはやバサマ同士でテレパシーが使えるのではないかと疑う。
少し津軽が濃過ぎる経験をしたかなと心配したが、アーちゃんもクーちゃんも「温泉大好き。また温泉行きたい」と言ってくれた。
津軽とベトナムの文化交流というよりも、一方的な津軽文化の洗礼であったが「おばあちゃんたち面白かった」と喜んでくれたのでまた津軽レベル高めの温泉に連れていこうと考えている。
見知らぬ地での厳しい冬は大変であるが、このような風土だからこそ築き上げられた、津軽の良い所を祖国に帰っても思い出して欲しいなぁと勝手ながらに思う。
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