民藝運動と社会制度
小代焼中平窯の西川です(^^)
以前、公式ホームページで書いていた内容を加筆修正してこの記事を書いていきます。
今回の記事では民芸(民藝)と社会制度について考えていこうと思います。
私自身は18歳~19歳の多感で精神的に弱かった時期に、柳宗悦氏の著作に幾度も心を救われました。
今では違う考えを持っていますが、当時は「柳氏こそ世界の真理だ!」と心酔し、私にとってのヒーローであったことは間違いありません。
因みに現在は出川直樹氏の考え方が最も腑に落ちますので、真逆の考えになってしまいましたが…。
何故私が柳氏に心酔し、そして考え方が変わっていったかは 別の機会に。
↓柳氏への感謝を書いております。↓
今、私が民芸について思うことは
「なぜ民芸と社会制度の関係についての言及が少ないのだろう…?」
「当時、柳氏が主張した内容が変化して伝わっていないだろうか…?」
ということです。
私が柳氏自身の著作を読んだ上での、民芸理論&民芸思想への解釈を書かせていただきます。
青年期の私は柳氏の大ファンでしたので、18歳~19歳の頃は図書館へ行っては柳氏の著作をひたすらノートに書き写していました。
私の民芸理論&民芸思想への解釈は
「民芸思想&民芸理論はギルド社会主義とは不可分のものであり、安易に現代の資本主義を土台にして民芸を理解しようとすると、柳氏が主張していた内容と乖離せざるをえない。」
というものです。
上記の補足ですが、柳氏の主張した内容は現実世界に存在するリアルな社会制度ではなく、「ギルド社会主義」というユートピア的な社会制度でした。
「現代の資本主義を是としつつ同時に民芸理論&民芸思想を是としてしまうと、例えそれが悪意のない無意識であっても、柳氏が主張した内容を個々人の勝手な都合でアレンジしたり、良いとこ取りをしなければ辻褄が合わなくなってしまう。」
のではないかと。
アレンジのしすぎなのか、深く考えすぎなのか、民芸を元にした各人オリジナルの理論&思想が時々誕生しているように思います。
誤解の無いように書きますが私はアレンジや良いとこ取りは悪いことだとは思っていません!
1つの思想について意見が分かれるのは健全ですし、私もその一人でしょうし。
以下は柳氏の著書『工芸の道』からの引用です。
柳氏自身が問い、柳氏自身が答えている部分です。
誠に勝手ながら個人的に重要だと思う部分を太字にしております。
上記の引用をご覧いただければ分かると思いますが、
柳氏は民芸の実現を世の中が社会主義となることを前提に語っており、そもそも資本主義の世界で民芸を実現しようとは考えていない
のです。
民芸の創始者である柳氏自身がそう明言している
のです。
ただし、2点ほど当時と現代の違いを説明する必要があるとは思います。
それは以下の内容です。
1・当時は現代よりも資本家と労働者の格差が目に見えて大きく、労働環境が悪かった。
今でも労働環境に苦しむ方々は多くいますので軽々しいことは言えませんが、当時の労働環境が悪かったのは事実のようです。
経営者と労働者の格差が現代以上に、目に見えて大きな時代でした。
少なくとも現代ではそれなりの社会保障制度がありますので、現代と当時とでは状況が違うという事は理解しておく必要があります。
2・大正~昭和初期の世界恐慌に日本も巻き込まれ深刻な不況となった。一方でソ連は大成功していたと当時は誤認されていた。
実際にはホロドモールというウクライナ人を中心とした大飢饉が起こっており、数百万人の餓死者が発生していました。
しかし、ソ連はその情報を公開していませんでしたので、昭和初期に柳氏がそれを知る手段はありませんでした。
なお、ホロドモールの発生原因は立場により見解が分かれますので、この場でその是非を論じることはしません。
↓現代資本主義の中で実践可能か検証した記事です。↓
以上のように、民芸理論は社会主義思想(※民芸理論においては道徳的秩序を持つ者同士が精神的に固く結ばれた・ユートピア的ギルド社会主義)を土台としているのです。
柳氏が当時の資本主義を受け入れることが出来ず、社会主義に希望を見出したということも理解はできます。
しかし、現代において民芸を語る際、民芸と社会制度の関係に言及する機会がもっと多くても良いのではないかと思うのです。
そちらの方が、民藝理論のより正確な理解に繋がるのではないかと。
2024年6月21日(金) 西川智成