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馬ホルモンを極めよう!
振り返ると、いろいろな馬肉料理を食べてきた。
定番の馬刺しをはじめ、馬の内臓刺し、馬モツ煮込み、知らなかったご当地料理「さいぼし」にも出会った。馬肉料理を食べ歩くうちに、その土地の馬肉文化について深く知ることができた。
今回は、ここまでの総括も兼ねて、馬ホルモンの魅力に迫ってみよう。
馬内臓は生食できる!
馬ホルモンの魅力は、なんと言っても生食できることだ。牛豚では禁止されている「レバ刺し」だって食べることができる。
馬の体には、食中毒を引き起こす病原菌がいない。その理由は、牛や豚とは異なる「馬の体の特徴」にあるのだ。
▶︎ 「胃が1つ」の動物だから
牛には胃袋が4つあるが、馬の胃袋は1つだけ。胃が4つある動物は、腸管内にO157を保菌している。O157は代表的な食中毒菌で、レバ刺しをはじめ肉の生食を禁止している一番の理由だ。馬の胃袋は1つだけなので、O157のリスクがない。
ちなみに、豚の胃も「1つ」だけだが、E型肝炎ウイルスやサルモネラ菌などのリスクがあるため、生食はできない。
▶︎ 「体温が高い」から
馬の体温は、約40度。動物のなかでは高いほうだ。
O157が生息できないことはもちろん、牛や豚の生食で心配される食中毒菌、寄生虫が生息しにくい環境だ。
▶︎ 「蹄が1つ」の「奇蹄目」だから
馬は、蹄が1つの「奇蹄目」
牛や豚は、蹄が2つの「偶蹄目」
この「生物の分類」によっても、ウイルス感染の違いがある。
牛や豚では、狂牛病や口蹄疫、E型肝炎ウイルスが心配されるが、馬はこれらのウイルスに感染する受容体細胞が異なる。牛や豚などの偶蹄目が感染する病気にかからないことも、生食ができる理由だ。
▶︎ 冷凍処理が行われている
生食用の馬肉は「冷凍処理が行われている」ことも大きなポイントだ。
馬は、食中毒を引き起こす病原菌が少ないように思えるが、寄生虫の心配がまったくないわけではない。犬や馬に感染する寄生虫「ザルコシスティス・フェアリー」のリスクもある。
そのため食肉加工会社では、寄生虫が死滅する「-20℃で48時間以上、冷凍処理する」ように指導されている。肉の生食でリスクのある寄生虫「トキソプラズマ」も、熱や低温に弱いため、冷凍保存が有効だ。
国内で流通する多くの生食用馬肉は、生産地で冷凍してから出荷する対策がとられている。だから、安心して生食ができるのだ。
いろいろな部位を「刺し」で食べよう!
さまざまな部位が生食できるのは馬だからこそ。馬内臓は「刺し」で食べて、ぜひ、その魅惑の味わいを体験してほしい!
◎ レバ刺し(馬肝臓)
これぞ禁断の馬レバ刺し!
低温調理でも湯引きでもない。
正真正銘、どストレートに「生」で食べられるのだ。
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ヌメッとした生々しいレバーの食感がたまらない。生食の規制がない馬レバだからこその味わいだ。どことなく、古い木造家屋のような風味もあり、少しクセを感じるかもしれない。
馬レバ刺し、メニューにあったら、ありがたく食べておきたい。
◎ ハツ刺し(馬心臓)
馬のハツは、あっさりしていて、クセがない。
牛や豚のハツより歯切れが良く、馬らしい凛とした食感が特徴だ。
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◎ せき髄刺し(馬脊髄)
うどんのような、謎めいたビジュアル。
なんと「脊髄(せきずい)」まで、生食できる!
馬にはBSEのような病気はないので、脊髄も安全に食べられる。牛では特定危険部位となるため、脊髄自体が食べられない。それだけに貴重な存在だ。
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脊髄そのものには味もなく、動物臭い感じもない。
ネットリした脂っぽさがあって、白子のような食感だ。
刺しもいいが、モツ煮込みにも入れてみたい。
BSE問題以前に存在していた「牛の脊髄が入ったモツ煮込み」が、とんでもなくおいしかったという話を聞いたことがある。馬の脊髄を使えば、いまは亡き「脊髄入りのモツ煮込み」が再現できそうだ。
でも、脊髄自体がめずらしいので、うどんのようなビジュアルを楽しみながら、生食したほうが有り難みがあるか。
◎ タン刺し(馬舌)
ホルモン界では、牛タン・豚タン・羊タンに続いて「馬タン」も食べられている。しかもこっちは生の刺しだ!
霜降りに見えるけど、意外とあっさり。
動物臭さやクセもなく、食べやすさは抜群だ。
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馬タンは、牛タンなどに比べると硬い。
しかし、硬い部分をカットして、これだけ薄くスライスすれば、生ハムのようになめらかで食べやすい。これも、生だからこそ。
◎ タケノコ刺し(馬大動脈)
馬の大動脈、通称「タケノコ」。見た目だけでなく、食感もコリコリしていて、まさにタケノコという名がふさわしい。
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大動脈は、体の中で最も太い血管で、心臓から送り出された血液を運んでいる。直径約3cm、管の厚さは7mm程度。牛の大動脈ぐらいに厚みがある。
◎ コウネ(馬タテガミ)
コウネ(タテガミ)とは、首部分の皮下脂肪のこと。馬の首筋に生えている毛「たてがみ」付近の肉だから「タテガミ」とも呼ばれる。脂肪とゼラチン質で構成される真っ白な肉で、馬だけが持つ特別な部位だ。
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プルプルして、とろける食感。赤身馬刺しと重ねて提供されることもあるが、これは贅沢に全部タテガミだけの一皿だ。コラーゲンが豊富で、いっぱい食べて美容に良い!
◎ 馬刺し(ロース・モモ・あばら・サーロイン)
ひと言で「馬刺し」と言っても、いろいろな部位がある。
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【馬の肩ロース】とてもやわらかいが、風味は薄め、あっさり系。
【馬のモモ肉】ムチムチして、噛み応えがある。筋肉質で、高タンパク・低カロリーを感じる肉。
【馬のあばら側の肉】通称「ざぶとん」。個人的にこれが一番好み。風味が良く、適度な脂感。なにより肉の味が濃い!
【馬のサーロイン】馬の胸椎後方の肉。牛肉と同様、高級な部位。きめが細かくて、なめらか。見た目も美しい。
食感・風味・脂感・質感。
同じ赤身肉でも、部位によってこんなに違う。
一番のお気に入りは「あばら」だ。
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肩ロースのあばら骨の近くにある部位だ。
黄色っぽい脂が雑についていて、あまり見た目が良くないが、この脂がおいしさを生み出している。馬刺しとして美しく提供するなら、きっとサーロインなんだろうけど、個人的には、この「あばら」を強く推したい。
「見た目が悪くて使われない部位は大体ウマイ」という本質を突いている。なにより、骨のまわりの肉は、ウマイと相場が決まっているのだ。
◉ 番外編「脂注入馬刺し」
こちらはスーパーなどで売っている、お手頃価格の冷凍馬刺し。
霜降りで、おいしそう!
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でも、これは「脂注入馬刺し」。馬肉に馬脂を注入して、霜降り肉のような見た目とやわらかさを実現した商品だ。
「インジェクション処理」という肉の加工方法で、針状の細かい刃を肉に刺して、針の先から脂肪を注入する。赤身肉は「サシ」の入った霜降り肉に生まれ変わるのだ。
馬というと、乗馬や競走馬のような筋肉質でスリムな姿をイメージするだろうか。馬肉は牛肉とは異なり、サシが入りにくい肉質だ。見る人が見れば、違和感を感じるかもしれない。
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脂肪注入であることは、ちゃんと表記されている。注入しているのも「馬脂」。原産国が違う馬も混ざっているが、全部馬でつくられている。
お得な価格で食べられて、満足感もある。言われなければ、加工肉だとわからないだろう。わかった上で、購入して食べる分には問題ないが、ちょっと賛否ある商品だ。かつて居酒屋チェーンでは、脂注入馬刺しの不当表示問題もあったくらいだ。
・・・
馬肉の燻製「さいぼし」
「さいぼし」とは、生の馬肉を乾燥させて、干し肉や燻製にしたもの。
牛馬の解体に携わってきた先人たちによって伝えられた保存食で、ホルモン文化から生まれたソウルフードだ。
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馬肉の旨味が凝縮していて、噛めば噛むほど味が出る。このさいぼしは、脂身がほどよくついた「バラ肉」を使っている。半生タイプで、とってもジューシー。旨味もたっぷりで、味わい深い逸品だ。
サシが少なく赤身が多い「モモ」あたりを使った馬肉の燻製もある。
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「さいぼし」は、生に近いソフトタイプやハムのようなもの、硬いビーフジャーキーのようなものまで、さまざまだ。
「さいぼし」の語源には、“裂いて” 食べる “干し肉” という意味が由来だという説や、竿を使って干していた「竿干し(さおぼし)」という言葉が変化したという説がある。
「さいぼし」は、一部の地域でしか食べられていなかったディープなグルメだ。牛馬の解体に携わる者から伝わったという歴史から、その名を言うことも、はばかられるような存在だった。
しかし現在では、関東を中心に展開するチェーン店『串カツ田中』で提供されたことをきっかけに、人々に愛されるB級グルメに発展している。
馬内臓のモツ煮込み
馬ホルモンで、忘れてはいけないのが「馬内臓のモツ煮込み」だ。
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でっかい馬モツはやわらかい!
クセや臭みもなくて食べやすい。言われないと、馬だってわからない。いや、言われても、馬っぽさがわからないくらいだ。
何より「馬内臓を使った煮込み」ということが、めずらしくて、衝撃的だった。この一杯をきっかけに、私は、馬肉文化を調べるようになった。
馬内臓を食べる地域は限られている?
馬の内臓を食べるのは「日本で6県だけ」という話もある。
馬肉料理は、長野県と熊本県が有名ですが、馬の内臓を食べるのは長野・熊本・滋賀・奈良・山梨・北海道の一部だけだそうです。
このなかに含まれていない都道府県でも、昔から馬内臓を食べていた地域もある。流通が発達した現代では、どこにいても遠い土地の食材が入手できるが、昔はそう簡単ではなかったはずだ。
食文化と共に、その土地の歴史も調べてみると、少しずつわかってきたことがある。かつて馬の生産地だった場所に限らず、馬の取引が行われていた街、農耕や荷役などの労働力として馬を用いていた地域には、馬肉のご当地料理があるようだ。
・・・
馬ホルモンを極めよう!
ホルモンといえば、牛豚が定番だが、馬の魅力もはかりしれない。おいしいだけじゃない。知れば知るほど、学べば学ぶほど知見が広がり、食文化への興味が掻き立てられるだろう。
食肉のなかでも、内臓まで生食できるのが馬だ。
「刺し」だけでなく、煮る、焼く、燻すなど、調理方法も幅広い。
世の中には、まだ食べたことのない馬肉料理がたくさんある。馬肉文化から生まれたご当地料理が、まだまだ、私を待っている。
これからも内臓肉のマニアな分野、
馬ホルモンを極めるぞ!
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