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朝じめの牛内臓は流通しない? 牛の胃袋に毛が生えている? 本当の答えを食肉市場で聞いてみた!

ネットにはさまざまな情報が混在している。ホルモンに関しても同様だ。古い情報がそのまま現在の話として語られていることもあれば、ウソかマコトかわからない、都市伝説のような話まである。

あいまいな情報で語られている、ホルモンのマニアックな疑問。裏どりすべく、本当の答えを食肉市場で聞いてみた!


【疑問1】朝じめの牛内臓は、いまも流通しない?

焼肉ホルモン、もつ焼き店などで「朝じめホルモン」という言葉を聞いたことがあるかもしれない。「朝じめ」とは、その名の通り、その日の朝に屠畜した(しめた)ことを指す。つまり「さばきたてのホルモン」だ。

「つぶしたて」という言いかたもある

鶏や豚には「朝じめ」があるが、「牛に限っては、朝じめがない」ということをご存知だろうか?

◎ BSE問題から、朝じめの牛内臓は流通しなくなった

日本では、BSE(牛海綿状脳症)問題をきっかけに、2001年から牛の全頭検査を開始した。屠畜した牛の内臓は食肉市場で1日保管して、検査結果が出る翌営業日に出荷される。朝じめの牛内臓は、この頃から食べられなくなったのだ。

ホルモンは鮮度が命。市場が休みとなる土日祝が絡むと、さらに日が経ってしまう。焼肉マニアの間では「何曜日に店に行けば、新鮮なホルモンが食べられるのか」が、重要なテーマとなった。

『ネイチャージモン』刃森 尊(イラスト), 寺門ジモン(著) より

金曜日に屠畜した牛の内臓は、市場の休みを挟んだ翌週の月曜日に店に届く。つまり、月曜日は鮮度が少し劣るよね、という話だ。焼肉ホルモン店に「月曜定休」がありがちなのは、そういう理由だろうか。

この漫画はBSE時代、2008年頃の話だ。15年以上が経ち、食肉市場での検査内容や1日保留を行う理由も変わっているので、順に見ていこう。

◎ 2017年:健康牛のBSE検査が廃止

健康牛のBSE検査は、2017(平成29)年4月1日以降、廃止となった。検査することがなくなれば、朝じめの牛内臓が復活しているかもしれない。この段階でも、東京食肉市場に質問をしている。

2019年の回答
「BSE検査は廃止されても、福島第一原発事故の関係で、牛肉の放射性物質検査も行っている。やはり牛に関しては、検査結果が出るまで、1日保留を行なっている」

国内で最後にBSE感染牛が見つかったのが2009年。そこから検査が廃止されるまでに長い年月がかかっているが、2011年に起きた福島第一原発事故により、新たな検査が必要となった。検査内容は、BSEから「放射性物質検査」へ。食肉市場での1日保留のルールは、引き続き行われていた。

◎ 2020年:牛肉の放射性物質検査が終了

2020(令和2)年3月31日、東京食肉市場では、牛肉の放射性物質検査が終了。ついに検査するものがなくなった。これが現在の状況だ。

今度こそ「朝じめの牛」が復活したのか!?

▶︎ 食肉市場の回答は……

現在も、朝じめの牛内臓は流通しない。
引き続き、1日保留を行なっている。

何か問題が起きたときのために、食肉市場で1日保管することは、引き続き行なっているそうだ。

牛内臓は当日出荷しない。
検査することがなくなっても、このルールは変わらないそうだ。

◎ 「そこまで新鮮である必要がない」

今回話を聞いたのは、東京都芝浦食肉衛生検査所の職員さんだ。もっとも印象的だったのが「牛内臓を生で食べられなくなった現在、そこまで新鮮である必要がない」と言っていたことだ。

確かにそうだ。
この一言で我に返った。
「朝じめ」にこだわる理由は何だ?
これはかつての「レバ刺しに対する価値」だ。

牛内臓の生食が禁止されるようになった発端は、2011年、5人の死亡者を出した焼肉チェーンの大規模な集団食中毒事件だ。これを受けて、2012年に「牛の生レバー」の提供が禁止。2015年には、その代替品として食べられていた「豚の生レバー・生肉」の提供が禁止となった。

焼いて食べるホルモンも、新鮮であるに越したことはない。と言っても、食肉市場で1日保管されたぐらいでは、大きく劣化することはないのだ。

内臓肉が影響を受けるのは、冷蔵庫からの出し入れの繰り返し、何度も手で触れるなど、温度変化にさらされたときだ。これは食肉市場から先の仲卸、飲食店の管理にすべてがかかっている。

いつか寺門ジモン氏が「つぶしたばかりで、牛の温もりがまだ残ったレバーをそのままの状態で食べられた」という昔話をしていた。そのような牛内臓が、ホルモン店のまな板に乗る日は、もう来ないだろう。

・・・

【疑問2】牛の胃袋には毛が生えている!?

ギアラ(牛第四胃)を下処理していると、こんなことがある。

めっちゃ毛がついている。
除去するのが大変なくらい、突き刺さっている。

この毛は、牛さんの体毛であることは間違いないが、一体どういう経緯でついたのか。ちまたでは「2つの説」がある。

<説1> 牛さんが鼻ペロしたときに飲み込んだヒゲ
<説2> 器官の一部として、胃袋に毛が生えている

<説1> 牛さんが鼻ペロしたときに飲み込んだヒゲ

牛さんを観察していると、いつも口の周りをペロペロしている。舌先で、鼻をほじっていることもある。この器用な行為を「鼻ペロ」と呼ぼう。このとき飲み込んだ毛が、胃袋に溜まってくっついているという説だ。

これが「鼻ペロ」

牛さんが鼻ペロや毛づくろいをすることで、胃の中に毛がたまるというのは本当だ。但馬牛の産地では、牛さんの胃袋から出てきた毛玉が、縁起物として扱われている。直径2〜3cmのボール状の毛玉は、めったにお目にかかれない幸運のアイテムで、お寺にまつられているくらいだ。

牛の胃袋、特にギアラ(第四胃)は、ヌメヌメしているので毛がつきやすい。とある焼肉の名店では、ていねいな仕込みがこだわりで、ギアラにまとわりついた毛を、一本一本、取り除いているのだとか。


<説2> 器官の一部として、胃袋に毛が生えている

最初、この話を聞いた時「そんなバカな!」と信じられなかった。皮膚に生えている体毛と同じリアルな毛が、内臓に生えているというのか? まるで「心臓に毛が生えている」のような、慣用句みたいな話じゃないか!

ギアラの毛は、飲み込んだ毛が刺さったもの。
ずっとそう思っていた。

しかし、その状況に遭遇してみると、そんな単純な話ではなかった。毛が「刺さっている」というより、人間のヒゲのようにしっかり根づいていて、引っ張っても簡単に抜けない。まるで男のヒゲを抜こうとしているような感覚だったのだ。

確かに、ミノ(第一胃)の表面には、絨毛じゅうもうと呼ばれる突起がビッシリついているし、センマイ(第三胃)にも、猫の舌のようなチクチクした突起がたくさんある。ほかの胃袋と同じように、ギアラ(第四胃)にも毛のような器官があってもおかしくない。

おかしくないが、皮膚に生える体毛のような毛が、体の内部、しかも内臓の内側に生えるというのか!?

▶︎ 食肉市場の回答は……

この問題は「迷宮入り」としたい。

一般常識的に「内臓に体毛のような毛が生えることはない」と言う意見もわかる。しかし、実物を見て・触れて・引っ張ってみて、その体感から「生えている」という意見も間違っていないように思えるからだ。

なにより、内臓肉の販売店がネットショップで言い切っている。
「内臓に生えている毛」なんです。と。

それなら、この毛は「何という名前」で「何のために」あるのか? ほかの胃袋にある絨毛じゅうもうのような器官であれば、名前と役割があるはずだ。そこまで裏が取れないと、この問題は解決しない。

「牛の博物館」ならわかるかもしれない!

牛内臓を処理したことがあって、解剖学の知識もある人……。そうだ! 岩手県・奥州市にある「牛の博物館」なら、わかる人がいるかもしれない。

ここは日本でもめずらしい「牛の胃袋標本」を展示している施設だ。学芸員による解説や講座も開催されている。なんといっても「牛の胃袋Tシャツ」が売っているくらいだ。牛の胃袋に詳しい人がいるかもしれない!


ホルモンのマニアックすぎる疑問

今回の話は、普通に焼肉ホルモンを食べる人、おそらく99.5%ぐらいの人には、どうでもいいことかもしれない。

冷蔵技術や品質管理が良くなっている現在では、牛内臓の1日保留をそこまで気にする必要はない。内臓に毛が生えていたって、おいしさは変わらない。毛を取り除いて、切り身になって出てしまえばわからないし、それが何であるかなんて知る必要もないだろう。

だがここは noteだ。一般メディアが扱わないマニアックな話を深掘りしていくことが、私のテーマでもある。だからこそ、裏どりを続け、0.5%のマニアに向けて、この記事を書く意味があるのだ。

私はこの答えを知りたい。
ごくわずかな0.5%のマニアも、知りたいと思っていることだ。

これからも調査は続く。
答えを探しに遠くの土地へ、旅に出るかもしれない。

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