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夏の思い出なんて何もねえ


夏の思い出なんて何にもねえ。2023。

私のことはともかく、妹が結婚した。6月、両家顔合わせのために東京に行った。6月上旬だというのに気温は30度。この日のために買ったベージュのパンプス。会食に参加した全員が緊張していた。

レストランの最寄りは初めて訪れる小さな駅だった。とにかく暑い日だった。電車が来るのを家族と待つ。ホームで2歳くらいの小さな男の子とすれ違う。お母さんに手を引かれてきょろきょろしながら歩いていた。それを見た父が微笑んだ。

たった一瞬の出来事だけど、その時強烈に、わたしには何にもねえな、と思った。私は多分、子供産まないし。結婚もするかわかんない。仕事も辞めたから、顔合わせで自己紹介するとき言葉に詰まっちゃったな。

駅のホームでひたすら陽射しを浴びていた。ビールが飲みたかった。本当は会食の間からずっとそのことについて考えていた。


#短編