ミルクチョコレートの扉

わたしは枯れた蔦の葉が絡まった大きな扉の前に立っている。1人で立ってゐる。
扉を開けようとすると、蔦の葉がざわめきだし、一斉に羽ばたく。わたしはそれらが葉っぱではなく、アイボリーと薄茶色のまだら模様の蛾であったことに気がつく。
ばたばたばたと音が鳴る。わたしは蛾が大嫌いなはずなのに、不思議とその蛾たちを嫌うことができない。

気がつくと、残された大きな扉と、わたしだけが向き合っている。扉の色はミルクチョコレートの色。わたしはなぜかその扉を開けることができない。取手に手を伸ばすことさえしない。ただじっと、高い扉を見上げて立ち尽くした。