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#9 英会話・再開してみたら

 自然に流れてくるものとは何か。今何も考えないでこの文章を書いている。ごちゃごちゃ頭の中で言ってくる声は無視して、ちょっと横に置いて、ただ書き進めている。何も書くことがない。ただあるのは、様々な生活の音、窓から吹き込んでくるちょっと冷たい風、タイプする音、動くカーテン、乱雑な机の上、過ぎ行く今の今の今の今の音・・・。

 昨日は久しぶりに英会話を受けた、その先生が75歳という高齢ながらとても元気でパワフルで、こちらも元気をもらった。自分にとっては、英会話って人と人との出会いなんだな、と気づかされた。英語を勉強したいと思って受けていたけど、自分の英語が上達しているかしていないか、よくわからないけど、こういう人に会えることが何よりの喜びなんだと思って、わくわくしてしまった。急に「今」の話を書いていたら、彼女の顔が浮かんできて、このことを伝えたいという衝動が走った。

 結局昨日のレッスンは私が計画しているとおりにはいかなかった。昨日はその前日のレッスンの復習を一緒にしてもらう計画でいた。そうしないと一向にやったことの復習をしない=積みあがっていかない事がフラストレーションだったのだ。授業の20分くらい前から話すことを考えて、計画していた。いざ始まってみると、今さっき起きたばかりという様子の先生が眠気まなこの表情で画面に現れた。挨拶をして、今日は昨日の復習をしたいと伝えようと思った。なにせ授業は25分。短いのでちょっとした会話を交わすだけでもあっという間に時間が過ぎていく、それで、リクエストしようと思ったと同時に、彼女から「今日はどんな一日だったの?」という質問がきて、初仕事だったと答えた。また次の質問。「あなたは、この長い通勤時間をどのように過ごしているの?」、そして読書の話になった。

 一時間以上の長い通勤時間に私は本を読んでいて、今は哲学の本に興味があって、インド哲学(バガバッドギーダー)を読み始めたことに話が及んだ。すると、彼女は目を輝かせて、彼女の豊富な経験について披露してくれた。29歳の時に出逢った恩師の存在のこと、タイで長いこと暮らしたこと、一旦アメリカに戻り、またインドで瞑想のセミナーや修行に参加したこと、人生にとって欠かせないものとなったヨガのこと。英会話のレッスンのほとんどの時間を彼女がしゃべっていた。無我夢中で話している。彼女の言っていることの半分も聞き取れなかったけれど、彼女がこれまで生きていた中で、インドのSageの教えがとても大切で、それを分かち合える喜びを感じていることが伝わってきた。レッスンの残り時間5分くらいになって、彼女は「私が信じていることを、あなたにも信じてほしいと思っているわけではなくて、すばらしさを知ってほしかっただけなの、今日はしゃべりすぎてしまったわ」と笑って言った。私はあまりにも色々なことを伝えてもらったので、半分しかわからなかったけど、徐々にキャッチアップしていきたいこと、それから、彼女の話に心を動かされているにもかかわらず、「Wow、Wow」と反応することしかできない自分が残念で、もっと言いたいことはたくさんあるのに、言えないふがいなさ。これからそういう自分の気持ちが言えるようになりたいことを伝えた。とてもプライベートな大切な話をシェアしてくれたことへの感謝も伝えた。

 ということで、25分はあっという間に過ぎていって、2分くらい延長してもらって、私がしゃべって終わった(笑)。このとおり、授業は予定どおりに進まなかった。昨日の復習も進まず、私はほとんど話していないので、自分の英語力も向上したとは思えない。でも、計画していたこと以上に何かすごいことを経験した気がした。流れに身を任せると、想像していないことが起きるということを、英会話のレッスンから体験したと言ったらおおげさだろうか。29歳から75歳に至るまでの彼女の人生を支えてきた様々な思想の中に、アジアの古い教えがある。私も今それを学んでいる。西洋の思想と東洋の思想の融合の実体験。こうしたことを経験したいから私はそもそも英会話を学びたかったのではないのか。今はたどたどしくって言いたいことも言えないのだけれど、想定外の25分という時間に酔いしれた夜だった。

 いきなり英会話の話に飛んだけれど、今に身をおいてみて急に書きたくなったことがこれだった。何のつかえもなく書けたことがこれだった。何かを感じたときに人はそれを自分に留めておくだけでなくて、共有したい、伝えたいと思うのだということもわかった。英会話を学ぶ多くの人がすでに感じていることだと思う。英語の間違いを正してくれるのはAIでいいかもしれない、でも、AIにできないことが、この予想外の展開とそこから生まれる興奮や感動なのかもしれない。別にAI批判じゃないし、AIのこと悪くいいたいわけじゃないけど、でも、人の力ってやっぱりすごいなと、そう思った夜だった。