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#5 真実は時空を超える~信ずることと知ること~

 小林秀雄の講演、信ずることと知ることを何度か聴きました。Youtubeで初めて声を聞いたときには想像と違う声で少し驚きました。素晴らしい講演だと思い、中古のCDを買いました。Youtubeであげられているのと講演そのものが違うのか、詳しくわからないのですが、最後に学生が小林先生に質問する場面が収録されています。その一連の応答を聞いていると、つーっと涙が頬を伝っていました。何か言いようのない感謝の気持ちで、かつての少年、少女に想いを馳せて、同じ疑問を抱きつつ中年になった私が、何十年も後にこの講演を聴いている不思議に胸がいっぱいになりました。時空を超えてなお共有されうること。この大切なことをこうして語ってくださっていることに感動しました。
 小林秀雄のあの熱っぽい語りは、何と言ったらいいのでしょうか、飽きるなんてことはありえなくて、本当に何回でも聴いていられますし、聴けば聴くほどにまた、何度でも聴きたいと思えるのです。この講演が書き言葉になったものが、『考えるヒント3』(文春文庫)の中に入っているのですが、この文章がまた素晴らしく、自分でお話されたあの唯一無二の講演を、このように違う形で蘇らせることの出来る人はやはり巨匠と呼ばれる人なのだろうなと思います。でも講演の中で、小林秀雄は学生への質問に答える際に、自分たちのような「凡人」はみたいなことを言っていました。
 中年になるまで小林秀雄は『モーツァルト』を書いた人で、数行読んだだけで私には難解過ぎる、理解不能と思いこみ、他にはひとつも読んだことがなかったのですが、その自分が彼の文章にこのように感動していることに、また驚いています。歳を取るというのも悪くないなと、こういうときに思います。
 この講演を聴いた後で、思い立って北鎌倉の東慶寺にお墓参りにいきました。こちらはまだ学生の頃に母に連れられて一度来たことがありましたが、こんな偉大な方が眠る場所という認識はなく、改めて訪れることが出来て感無量でした。実際にはとても質素なお墓です。お墓というよりも、自然と一体化して、自然そのものに還られたと思われるようなたたずまいでした。鈴木大拙先生、西田幾多郎先生のお墓にもお参りしました。鈴木大拙先生、西田幾多郎先生のお墓は近くにあって、自力で探すことができたのですが、小林秀雄先生のお墓だけは、どうしても見つからず、受付の方に地図を見せていただき、ようやく見つけることができました。本当に静かな静かな素敵なところです。時がとまったような空間、自分が自然に生かされていることを実感し直すことのできる空間でした。心から感謝申し上げます。

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