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―with(ーと、の世界を問う)

『ともに生きることば』出版記念イベント 参加レポ

の前に。

建築家・アレグザンダー『パタン・ランゲージ』との出会い


  私が“いま、最も超絶面白い!!”と思っている施設を設計した(している)建築士の八木稔文さん(わくわくデザイン)が以前教えてくださった建築家が『都市はツリーではない』を書いたクリストファー・アレグザンダーです。
 八木さんは介護施設を設計するにあたり“特養のツリー構造に問題があるんじゃないかと考えた”と言います。
 
 理事長、施設長をトップに、事務長、統括リーダー、ユニット長、〇〇リーダー…。
 施設の組織図はこのような“ツリー構造”になっていることが多いですよね。
 
 「『都市はツリーではない』には、都市はいろんなものが交わっている。その結果として起こっている、多様なことのなかで生きているということが豊かさだ」というようなことが書かれているんです。
 プロジェクトでは、ツリー構造ではなくもっとオープンで柔軟さを持って介護の力を引き出せるような形を目指して設計に取り組んでいます」


(2021年3月インタビューより)

この八木さんの言葉を受け、私はアレグザンダーの著書を手に取りました。
そのなかの一冊『パタン・ランゲージ―環境設計の手引』。

どこでも老人、世帯の混合、街角の踊り、水への接近、共有地etc、「あったら素敵になるよね」が繋がっていく…

 “この建物、いいなぁ…“なんでだろう?”“あ、こういうことか!” 
この本を読むと、言語化されたもので理解することができるのです。

これは建築物や街をつくるときの指針、アプローチを「パターン」という形式で記述し、パターン間を細かく関連づけてカタログ化した本

(amazon ブックレビュー)


ところで、パタン・ランゲージとは何でしょうか
 

建築・都市計画に関わる理論。単語が集まって文章となり、詩が生まれるように、パターンが集まってランゲージとなり、このパタン・ランゲージを用いて生き生きとした建物やコミュニティを形成することができるとされる。

(Wikipediaより)

 ヤン・ゲールの『人間の街』(人間的スケールの「生き生きした、安全で、持続可能で、健康的な街」を取り戻すには―。実践に裏づけられた公共空間デザイン論:「BOOK」データーベース)も魅力ある論考なので、建築に興味がある方はぜひ読んで頂きたい一冊です。
 
さて。

はみ出ること 制度外 or  ハナから越境

 
 福祉にまつわることは制度化されていますよね。
 概念化され、「こういう在り方」というものが示され、それに準じてケアの行為をする。
 もちろん大切なことですが、それが当たり前になるほどに「制度の枠」から出られない思考・行動が定着していってしまいます。
 ケアは人の暮しを支える行為。でも、人間の暮らしって、みんなそれぞれ違うものだし、そもそも価値観がみな異なる。そこに何かをあてはめること自体に限界があって…
 
 現在、介護施設で暮らしている多くの高齢者は戦争経験者で苦労した過去があるから、「お世話してくれてありがとう」「申し訳ないねぇ」と、画一的なケア、病院のような施設(=”ふつうの生活”とは異なる環境)も受け入れておられます。でも、生理的には本当は受け付けていないがために、認知症が進んでしまったり、問題行動とされる行動が常態化してしまったり…。
 
 うーむ…と頭を抱えてしまいます。
 
 私は日本各地にある、面白い施設、ユニークなトップの方を取材させて頂き、記事にしてきました。「すごい」「刺激を受けた」といった感想とともにあるのが、「あそこだからできるんだよね」「あの人だからできるんだよね」。
 
 記事を書く向こう側には「もっといろんな施設が、こういう場になればいいのになぁ」という願いがあるわけです。
 “すごいね”の思考停止じゃなくて
 
 ところが、出たんですね。思考停止に至らないようにするメディアが。
パタン・ランゲージ、活かせるんですね。介護、福祉の現場で。

『ともに生きることば』



 いいケアをしている現場には共通事項があることは当然ながら気づいていました。
 それを、何年も研究を重ね、パタン・ランゲージ―言語化したのが『ともに生きることば 高齢者向けホームのケアと場づくりのヒント』です。
(2014年に『旅のことば:認知症とともによりよく生きるためのヒント』が既に出版されています)
 
 執筆者は金子智紀さん(慶応義塾大学SFC研究所上席所員)、井庭崇さん(慶応義塾大学総合政策学部教授)。
 井庭さんは、パタン・ランゲージの国際学術機関の理事でもあります。
 
 著者のお二人と、「ともに生きることば」パターン作成メンバーは全国のケアの現場に足を運びました。
 フィールドワークして、インタビューして、得られたことをKJ法により実践の型の抽出を図ったといいます。
 実践者からのフィードバックもふまえ、まとめられ作成された本です。
 
 井庭さんは次のように話します。

 「コツというのは押さえどころ。語源的には『骨』。実践のコツとは骨なので外からは見えにくい。それを“こうしたものだよ”と紹介できれば。ケアのコツを紹介する、すなわち「カタ」(型)。武道などのカタは途中段階でのモノ。プロセス。最後に出てくるものは多様」
 「コツには名前がない。でも、そこに名前(言葉)を与えていくといいことが起こる。いいこと、とは認識できること、すなわち話すことができる状態。コツについて語り合えるということ」
 「多様なふるまいを言語化する=パタン・ランゲージであって、物事を見る解像度が上がり、気づきや実践のヒントになる」

物事を見る解像度が上がる

 これは本当に大切なことですよね、いろんな場において。
 解像度を上げること(坂口恭平さんの言う”レイヤーを上げる”に近いとも思いますが)ができると、物事を多角的に、俯瞰的に、見たり考えたりできるようになるから、自分にとってあまり都合のよくない何かが生じても動じる時間が減るというか…。
 
 同じく、井庭さんが著者でもある『対話のことば オープンダイアローグに学ぶ問題解消のための対話の心得』。とても面白く「うん、うん」と頷きながらスッと読めてしまうのでおすすめです。
 
 冒頭の“推薦のことば”に「本書は、対話についての対話を促し、かつ、人間にとって応答がとても重要であるということを深く理解する手助けをしてくれるでしょう」とあります。
 

“人間にとって応答がとても重要”


 この言葉に、グッときます。
 だって、人類学者のインゴルドも言っているのだから。
 
 インゴルドは「人類学とは、世界に入っていき、人々とともにする哲学」(『人類学とは何か』)と言っています。
 インゴルドの言う人類学は、私が問い続けている“with”(ーと、の世界)とめちゃくちゃリンクするんです。
 
 さらに、前出の著書のなかで“他者を真剣に受け取ることが私の言わんとする人類学の第一の原則である”とあって、インゴルドの言うことがまさに、ケアの姿勢、態度なんじゃないかと思うわけで。

 <関心>interestはラテン語のinter(あいだに)とesse(あること)から成る。
相互作用とはあいだであり、調和とはあいだのものである。
線としての生とは調和の過程である。
調和=応答(コ・レスポンス)である。
観察することは客観化することではない。人や物に注意を払うということ、それらから学ぶということ、そして指針や実践において追従すること、参与観察とは、要するに、調和の実践なのだ。

ティム・インゴルド『ライフ・オブ・ラインズ 線の生態人類学』より

 パタン・ランゲージの生みの親、アレグザンダーは言っています。
 「美とは調和である」と。
 
 やっぱり持って、ケアの仕事って、もう最高に人間にとっての美しい仕事なんじゃないかと思います。

 ちなみに、延藤安弘さんの著書も併せて読むと本当に本当に面白いです。NPO法人まちの縁側育くみ隊代表理事、建築家で、残念ながら亡くなられましたが、延藤さんも『私からはじまるまち育てーつながりのデザイン10の極意』や『何をめざして生きるんや 人が変わればまちが変わる』のなかで「対話、応答が大事。応答できる能力 レスポンス」と、対話・応答について語っています。

6名のゲストの言葉

 話を戻します。

『ともに生きることば』出版記念イベントが9月2日と5日と2回に渡って行われました。

 9月2日のゲストとして呼ばれたのが、
「銀木犀」(シルバーウッド)の下河原忠道さん
「はっぴーの家ろっけん」の首藤義敬さん、
“面白い”と近年噂によく聞く「アンダンチ」(仙台)の福井大輔さん


9月5日のゲストは、 
言うまでもなく有名な、「あおいけあ」の加藤忠相(神奈川)さん
最近の動きがものすごーく気になる、「ゆず」の川原奨二(広島)さん、
OTに関することも教えて頂きたい&伺ってみたいとずっと思っている、
「むく」(佐賀)の佐伯美智子さん


 もうホントに素敵すぎる人選!!でテンションが上がりまくりました。
 実際、ゲストの発する言葉には「めちゃくちゃそれ大事!!」と思う言葉であふれていました。メモが止まらない…。
 
 それを引き出したのは、ご本人たちの“素”であることは間違いないのですが、「ともに生きることば」(本、カード)があってこそ。

〇このカード、楽しい。
これをきっかけに、会話を重ねやすくするツールだなと思う。―福井さん
 
〇このカードで遊んでみて、いいなと思った。現象ばっか見ている人が多いけど、そこに答えはない。(いいと思う現象の)中身はけっこう同じパターン。そこを見るクセをつけること。じゃないと情報ばっか集まっちゃうから。
“駄菓子屋やってるんだ”“じゃ、うちもやろ”じゃない。見えていない。カタが大切。―首藤さん
 
〇いい判断やいい結果を持っているひとはカタを持っているんだよね。カタとは柔軟に変わるもの。『ともに生きることば』にはこれが凝縮されているよね。―下河原さん
 
〇このカードをコミュニケーションツールとして使いたい。いろんな場で使ってみて、どう変化していくか、それもフィードバックしたいー川原さん
 
〇スタッフ同士の思いの共有、大切にしたいことの共有って大切。なぜそれを大切にしているのか。思いのすれ違いはもめる原因にもなる。心の中の言葉をどんどん発信していけるようにこのカードを使いたい。言葉って、やっぱ大切だから。―佐伯さん

 カードのひとつに「笑顔が生まれる場」というのがあります。加藤さんは言いました。

 〇うち、マニュアルはないんです。マニュアルがあると、標準化したサービスは提供できるけど、それって”お前ら失敗すんなよ””成長すんなよ”と言っているのと同じ。うまくいかなかったときに、人は成長する。
うまくいかなかったときに笑い合える、許し合えるような環境がないと、いい事業所も現れないんじゃないか。ー加藤さん

クスッと笑い飛ばせる場、
最終、笑顔。
これ、最強なんですよね。
 
その土壌をつくるのは、言葉。対話。
 
「となりの人から学べる。語り合って学べる。隣の人の経験はめちゃくちゃ役に立つ。そのためのインターフェース(接点)となるのがパタン・ランゲージ。自分の経験は語る価値があるんだと気づくこと」(井庭さん)
 
ぜひ、『ともに生きることば』『対話のことば』など“パタン・ランゲージ”に関する一連の本のページをめくってみてください。
 
よりよく生きる、につながるはずです。
もちろん、誰かと。
―with.

※本、カード イベント視聴URL

『ともに生きることば:高齢者向けホームのケアと場づくりのヒント』
(金子 智紀, 井庭 崇 著, 丸善出版, 2022年)



「ともに生きることばカード」(ケアと場づくりのヒント)


出版記念イベント 9月2日の映像

9月5日の映像


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