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第2子の育休に関する記録(中編)
第2子の育休に関する記録の中編です。中編は,主に制度や育休に対する持論の話になります。
今回利用した制度
今回の育休(産休含む)では,以下の制度を利用しました。
○配偶者出産休暇(2日)
○妻の出産に伴う子の養育のための休暇(5日)
○出生時育児休業(4週間)
これらの制度は,所属先である筑波大学のこちら(PDF注意)のページにも掲載されています。これらに加えて,年休を数日取って合計で1.5か月くらいの育休期間となりました。
第一子の時は育児休「暇」(養育のための休暇)のみを利用したものだったので以前の記事では「育休(5日)」と書いたのですが,今回はそれに加えて育児休「業」も利用しました。そもそも第一子の時は休「暇」と休「業」の違いもよく分かっていなかったのが正直なところですが,休暇は年次休暇などと同様の扱いで給与にも影響しません。一方,休業となると一定期間就労をしないことになるため給与は発生せず,代わって育児休業給付金が給付されます(詳細は後編を参照)。
今回取得した「出生時育児休業」は2022年10月から開始された新しい制度のようで,第一子の時にはなかった制度でした。通称「産後パパ育休」と呼ばれるそうです。
「出生時育児休業」は「原則として、子の出生日から8週間を経過する日の翌日までの期間内に4週間以内の休暇が取得できる制度(分割して2回取得可能)」で,産後直後の育児に専念するための休業になります。この「分割して2回取得可能」というのが個人的にはありがたく,私の場合育休期間中にどうしても外せない学内業務があった関係で,その業務の前後に分割して育休を取ることで当該業務に対応することができました。また,この「出生時育児休業」には「労使協定を締結している場合に限り、 労働者が合意した範囲で休業中に就業することが可能」という条件があります。つまり,育休中であっても一定時間・日数の就労が可能になるということです。ただ,本学はこの「労使協定を締結している」に該当しないようで,私自身はこの条件に当てはまりませんでした(もしかすると所属先によってはこの条件に当てはまることもあるかもしれませんが,大学の場合はそういった例はレアケースかもしれません)。育休期間中に「どうしても外せない仕事がある」という人は育休を取ること自体を避けがちだと思うのですが,このような柔軟な育休の取り方が可能であることは知っておいて損はないと思います。
もちろん,この「出生時育児休業」とは別に通常の「育児休業」も取得可能です。なので,私の育休は一旦は終わりましたが,必要があれば期間内でまた育休を取る権利が残されています。そう考えると,「出生時育児休業」と通常の「育児休業」を合わせれば,かなり柔軟な育休の取り方ができるのではないでしょうか。
男性育休は個々の家庭の選択
家庭の事情はそれぞれ
第1子の時は男性育休は何が何でも取った方が良いだろうと思っていましたが,育児をしていく中でその考えは少し変わりました。というのも,実際に育児をしたり,他のご家族と関わったりする中で,育児の状況というのは家庭によって様々だという(当たり前の)ことに気づいたからです。例えば,以下の例を考えてみてください。
家庭A
・第1子を出産
・男性が主たる生計者,女性は収入が0(無職)
・子の祖父母が近所に暮らしており,サポートを受けられる
家庭B
・第2子を出産,第1子は未就学児
・男女共にフルタイムで勤務
・子の祖父母は遠方に住んでおり,サポートを受けるのは難しい。
この2つの家庭を比べてどちらが男性育休の必要性が高いかと問われた場合,判断は一致し易いのではないでしょうか(必要性のある・なしの二項対立ではなくあくまで必要性の高低の話です)。後編で述べる育児休業給付金の現状などを考えても,このような個々の家庭の状況や事情を鑑みずに「男性育休は絶対に取得すべき」と安易に主張することはできないかなと思いました。単に男性育休を取得した・取得していないで線引きするのも不毛な分離を生むだけのように感じます。とはいえ,この記事の最後に書くように私の結論としては「それでも男性育休は取った方がいい」です。
女性育休の長さや子連れ学会も同じ
少し話はずれますが,「個々の家庭の選択」という点でいうと,女性育休の期間や子連れ学会についても同じことだなと思います。女性の育休は男性よりは長くなるものの,それでも期間はまちまちであり,たまに最短の1.5か月で復帰したという人もいれば,1~2年近く育休を取る人も多いと思います。これもやはり個々の家庭の事情によると思いますし,職場の都合や女性自身の考え方や価値観も大きく関与することだと思います。
研究者という職業でいうと「子連れ学会」も最近はそう珍しくもなくなってきていますが,これも個々の家庭の事情に依るところが大きいと思います。学会に子どもを連れていくかどうかは周囲のサポートや子どもの健康状態によっても変わることであり,学会に子どもを連れて行かざるを得ないという人のために環境を整備することは大切だと思いますが,「子連れで学会に参加すること」自体に良し悪しはないのかなと思います。個々の家庭の事情に依る部分が大きいところを無視して(子供がいても)活躍する研究者像を描くことは,女性研究者の産後復帰や子育て世代の研究者のハードルをむしろ高めてしまうような気がしています。
それでも育休を取った方がいい理由
先に述べたように男性育休は個々の家庭の選択ではあるのですが,「それでも男性育休は取ったほうがいい」というのが私の結論です。その理由は次の通りです。
産後直後は心身ともに大変な時期
産後の体のダメージは「全治数か月の交通事後レベル」とよく喩えられます。また「産後うつ」も世間的にはよく知られていますし,様々な産後ケアのサービスや施設も存在します。要するに,そのくらい産後(特に直後)は心身ともにボロボロということです。そんな時期に,パートナーであり,子の父親がそばにいることの意義はとても大きいと思います。子育てのサポート自体は子の祖父母などからも受けられるでしょうが,産後直後に父親がそばにいて支えるという意味はメンタル面でも大きいと思います。なので,男性育休の必要性が低い家庭であっても,1週間でも2週間でもいいから男性育休は取ったほうがいいと思っています。
男性育休を取りやすくする
自分が育休を取ることで,同じ組織や分野で別の男性が育休を取りやすくなるという理由もあります。もし自分が所属する組織で男性育休取得の先例がないのなら,自分が育休を取ることで周囲の意識も変わるでしょうし,いくらか先例があったとしても先に述べたように期間や取り方も人によって違うでしょうから,様々な事例が蓄積されることは良いことだと思います。様々な男性育休の事例があれば,「自分が求めている育休はこの人のパターンに近いかも」というようなケースを見つけやすいと思います。
現在の男性育休の取得率は全体的に見れば3割程度で,「個々の家庭の選択」と言い切れるほどに男性育休は定着していないのが現状だと思います。具体的な数値は議論の余地はあるでしょうが,ある程度の取得率を超えてから初めて「個々の家庭の選択」と言える状況になるのかなと思います。それまでは,短くても良いからデフォルトで男性育休は取るとしておいても良いように思います。
働き方が変わるきっかけになる
育休を取ることで,育児で何が必要か,育児がいかに大変かを知ることができればその後の働き方が変わるきっかけになると思います。いつどの時間にどのようなことが必要で,それを1人でやることがどれだけ大変かということが経験として分かっていれば,できるだけ早く帰ろうという気持ちになるだろうし,夕方以降に会議や定期的な研究会を(自分で)開催しようとは思わないだろうし,週末や連休もなりふり構わず出張を入れるということもないだろうと思います。
こちらの記事に書かれているように,「わざわざ育休で大変な思いを経験する必要はない」「育休は二人で家事育児を行って余裕を持つため」という考えはもちろん理解できますし,実際そうだと思います。ですが,実際に経験してみることで「これをしながらあれもこなさなくてはならないのか!」「ここで助けがあったらありがたいのに!」という大変さの中で気づきを得ることも多いでしょう。また,育休を取らないと平日は朝と夜の限られた時間しか育児を行う時間はありませんから,自分が仕事をしている時にパートナーが何をしているのか,そしてそれがどのくらい大変なのかを経験として知ることはできません。「育休中くらい男性が1人で大変なことをすべて引き受けろ」というわけではなく,育児を経験的に理解するために「男性が育休中に(一時的に)大変な思いをする」ことは,その後の働き方を変え得る意味のあることではないかと思っています。
今後2人の育児をしていく上でまた考えは変わっていくこともあるとは思いますが,「短くてもよいから男性育休を取ったほうがいい」というのが今の考えです。