金木犀 ヌチグスイ*⑩
金木犀の花の香りが風に乗って街中を漂い、鼻孔をくすぐる季節がやってきた。
その小さな花は形もかわいらしく、花弁の色は、秋に熟れた柿の実や明るい夕日を想起させる。日の入りが早まってくるこの時期に点された、温かな灯りのようなミカン色。金木犀の花言葉も知らなかったけれど、謙遜や気高さという言葉は、好ましく感じられる。香りの活用方法も参考になった記事を見つけて、ラッキーな気分。↓
https://greensnap.jp/article/8698
「庭に金木犀の木がある家で、柴犬を飼いたい」と、小学生の頃、わたくしは願っていた。そのどちらも大好きなのに、自分の家にはなかったから。
大人になって、何度かの引っ越しをした先の庭に、既に大きな金木犀の木が3本も在り、その転居の少し前に、友人から引き取り手のない柴犬のオスの仔をもらってくれないかと持ち掛けられていた。嬉しいことに、わたくしの夢は三十年以上を経て、奇しくもほぼ同時に自ずと叶ったのであった。其処での暮らしは、子犬だった柴犬がしっかりと長生きをして往ってしまうまで続いた。
優しく穏やかな質の柴犬と盛大に馨る金木犀がセットになって、わたくしの胸にその家での癒やしの思い出を形成してくれている。そのおかげで、この歌とわたくしが抱く金木犀のイメージは近しいな、と楽しく聴くことができる。
https://www.youtube.com/watch?v=uvTz9JBuIBw
わたくしの金木犀にまつわる記憶は、もうひとつある。学生時代の中国旅行でのこと。ひどく乾燥した冬期の北京や西安をまわった後にたどり着いた、南のエリアの温かく緑豊かにしっとりと潤う桂林。其処はほとんどの街路樹が金木犀の街だった。残念ながらその花は咲いていなかったけれど、現地のガイドさんの説明を聞いて、初めて金木犀に雌雄株があることを知った。桂林には雌雄両方が揃っているという。
そして、今でも桂林は金木犀香る街のようである。アロマエッセンスの大産地でもあるらしい。
https://www.treeoflife.co.jp/library/aromablendlab/essentialoil/201809034542.html
かつて、わたくしがツアーガイドでさらに驚いたのは、「日本にはオスの金木犀しかない」事実だった。その理由として真偽はわからないけれど、日本にメスの木を持ち込んでもオス化するという話もあるらしい。(もし本当であれば、それは深い謎である)
どのような理屈であっても、日本では金木犀の種は出来ないのは事実。日本で金木犀の木を増やすためには挿し木などの方法によるしかない。メスのいない日本で、クローンのオスの金木犀が、秋になると一斉に開花し馨るのだと思うと、怪談めいた恐ろしさを少し感じ、なんだか侘しい心持もする。日本で結実しない金木犀のことについて書かれた記事も見つけられた。↓
http://www.ja-gp-fukuoka.jp/education/akiba-hakase/002/013.html
不思議を秘めた金木犀。中国の旅では桂花陳酒を恩師へのお土産に買い求めた。甘く馨るこのお酒は身体に良い薬酒だと聞いたから。今改めて、薬効という視点で金木犀を見つめてみる。そうすると、生薬としての効能を紹介する記事も見つけられた。↓
https://www.pharm.or.jp/flowers/post_31.html
そして、その薬効を期待しながら、レシピに沿って手作りしたお茶などを楽しもうとの嬉しい提案の記事はこれ。↓
http://pororo.info/archives/254.html
気候によっては二度咲もするという、金木犀だけれど、これから先、秋限定の金木犀の香りを何度味わうことができるだろう。そう思うと、香水や蜜漬けなどを手製して、心を落ち着けたい時に少し嗅いでみるのもいいと考えが広がっていく。今まさに戸外で馥郁と馨を放つ金木犀の花をこれから摘みに出かけようかという心持ちになる。
我が家の窓辺にやってきた金木犀の匂いを利きながら、わたくしは金木犀の本場の桂林に再び訪れる機会が巡ってくるのだろうか、と推し量っている。
https://4travel.jp/travelogue/10038177
それはそうと、明日はハロウィン。なぜだかカボチャも金木犀の花色をしている。香りの魔法でその花言葉のように、危険な存在に陶酔し、努々(ゆめゆめ)誘惑されぬよう、どうぞお気をつけあれ。