マイクロノベル集 271「大きくなるには」
No.1501
まずドアを開く。すると「いらっしゃいませー。何名様ですかー?」と訊かれる。テーブルに着いたらメニューを……。お前が作ったこの本、何の本? 「ファミレスで食事をするためのハウツー本。上級者向けに、食材を育てる農業入門もある」ファミレスでいい。
No.1502
「ようこそ」眼科医が妖しく微笑む。上、下、左下……。「右目は一.五。ヒヒヒ。次は左目を」僕は右目を隠す。視力検査のランドルト環――『C』が一斉に回転する。「なにが見えるね?」気球、長い道、七色に輝く山。美しい女神が妖しく微笑む。「ようこそ」
No.1503
のど越しがいい、なんて言うけどさ。夏に冷たい水を飲んだ瞬間に勝るものはないでしょ? 「あ、はい。その通りだと思います」まあ、今は冬だからさ。ぬるいお湯で我慢するけど。「俺の喉で喋ってる、あんたは誰?」昔、あんたが飲み込めなかった理科の問題。
No.1504
ぼくらは子供なので、もらったお小遣いで買い物をします。「世にも珍しい、美しい声で歌う箱だよ」成長して知ったんだけど、この箱はあまり好かれていなかったらしい。「こっちの箱の方が美しい」ふうん。かつて大人だった人たちは、あんな声が好きなんだ。
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