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「地球を相手にする学問」の原点はフィールドワーク。13泊14日の泊まり込み実習
理学部の地球惑星科学科に、1949年から続く2年生の名物授業「地質調査」があります。
秋学期の週1回講義、講義と連動する9~11月の短期野外実習と2~3月に13泊14日の泊まり込みで行う長期野外実習です。一連のカリキュラムは計13単位あり、学科生が例外なく受ける必修授業として受け継がれています。11月下旬、愛知県東栄町で行われた秋の短期実習の現場を訪ねました。
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■山間地の川沿いの変化に富んだ地形を歩いて調査
実習地は愛知県の山間部にある東栄町。学生たちは“秘境を巡る路線”で知られるJR飯田線に揺られ、名古屋から3時間以上かけてJR東栄駅に到着しました。
点呼を取ると、出迎えた高橋聡准教授ら担当教員の車に乗り合わせて現場へ。それぞれが手にした2万5000分の1地形図で自身の位置を確認し、記録したら調査開始です。約30人の“調査団”は、刈り取りを終えた田んぼの脇を分け入り河原に下ります。
河原に着くと、まずは基本の基(き)である岩石の見分け方。周辺の石を拾い集めながら、堆積岩、火成岩、変成岩などと分類します。しばらく収集した後は“答え合わせ”。高橋准教授が「表面は風化しているので、割って中を見ないと判別しにくいですよ」「これは安山岩なので、火成岩です」などと解説すると、学生たちは興味津々でのぞき込み、説明を聞き、熱心にメモを書き込みました。
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実習の課題は、①河原の岩石の種類分け②安山岩の柱状節理(写真)の方位計測とスケッチ③川沿いの岩脈(異なる岩体に貫入した岩石)と不整合の観察④堆積岩の観察と柱状図(地層や岩石の鉛直方向への積み重なり方を示す図)の作成――など。学生たちは地形図を手に同町の中央部を流れる大千瀬川沿いを歩きながら、各所に出現する露頭(地表に露出している岩石や地層)を観察し、ハンマーで岩をたたいて断面を観察し、岩脈の角度や方向、長さを計測してスケッチして、地質調査の基本を学びます。
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一行は日暮れ前、この日の最終課題のスポットへ。隆起し、浸食されて大千瀬川沿いに露出した岩脈と断層の観察です。学生たちは個別に、あるいは仲間と組んで観察ポイントを決め、岩石の種類や向き、層の厚さなどを計測して柱状図の作成を進めます。
実習に参加した蜂須賀啓介さんは、もともと物理が好きで理学部を志願。「地震など自然現象の分析や防災・減災対策で物理を応用できる」と当学科への進学を決め、「座学で学んだことを、フィールドで“コレか!”と実感できることが面白い」と目を輝かせます。内倉宗潤さんは山が好きで、気象や火山、地質に興味を抱いて当学科へ。「(2月開催予定の)2週間の実習はしんどそうだけどすごく楽しみ」と声を弾ませます。稲家清美さんは「幼少の頃から宇宙や太陽系が好き」。ハンマーで岩をたたきながら「将来は隕石を分析してみたい。フィールドは苦手だけど石を見ることは必要」と、丹念に観察していました。
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担当教員が事前に下調べしたルートをたどるものの、道なき道を進むフィールドワークはちょっとした探検のよう。水辺で足を滑らせて靴がずぶ濡れになったり、川の水量が多くて対岸に渡れずう回ルートを探したり、学生にとっては実習の意味だけでなく、五感を大いに刺激するひとときとなりました。
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■講義で学んだことを現地で実践。その昔は1カ月泊まり込み!
一連のカリキュラムは秋学期の講義「地質調査法」をベースに、9~11月の短期野外実習「フィールドセミナーⅠ」、13泊14日の泊まり込みで行う2~3月の長期野外実習「地質調査」を三位一体として実施します。講義で地形図の見方から露頭の観察方法、柱状図など各種の作図方法を机上で学び、それらを野外で実践して身に付ける構成です。野外実習では地質調査の知識を身に付けるとともに、土木建設工事や地下資源の開発、防災活動などに不可欠な「地質図」を作成する手法を学ぶことを目的とします。
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地質調査の指導を長年担当してきた竹内誠教授によると、この実習は現学科の前身となる地球科学科が創設された1949年から始まる伝統の授業だとのこと。自身もこの学科出身で、学生だった40年ほど前に実習を受けたそうです。当時も実習地は東栄町で、長期実習は現在の倍の1カ月間! 竹内教授は「数人ずつの班に分れ、先生から『さあ行ってこい!』と送り出された後は学生が自力でひたすら調査の毎日。当時は夏の実習で、とにかく暑かった~!という記憶ばかり(笑)」と懐かしみます。今も竹内教授の研究室には実習で使った地形図が保管されていて、そこには現地をくまなく巡った痕跡が、詳細なメモ書きとともに残されています。
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1カ月にわたる調査の記録が綿密に
■学科生が4年生に進むための“進級論文”的存在
インターネットとパソコンとスマートフォンの普及により、どこにいてもインターネットやGPSで情報を得られる時代。現地を訪れ、地図上で位置を特定して行動し、地形を見て岩石に触れて調査する――[ST1] 。竹内教授は「地球を相手にする学問を学ぶのが地球惑星科学科。地球を知るためには、現地で調べることが基本。この実習はどの専攻においてもベースとなる経験を積む機会になる」と考えています。
秋の短期実習が終われば、講義を挟んで2月下旬に集大成となる長期実習「地質調査」です。学生たちは東栄町に2週間泊まり込み、グループに分かれて山中に分け入り、地層や岩脈の分布を調べ、断層を追跡し、ときに化石を発掘し、調査結果をレポートにまとめて発表します。このレポートは学科生が4年生に進むための“進級論文”とも呼ばれ、歴代の先輩が残した足跡として今なお理学部の講義室に並んでいます。
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