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博士課程は人生最後の“青春”。植物の「体内時計」を研究する名大生

ほとんどの生物に備わり約24時間のリズムを生み出す「概日時計(体内時計)」。一般的に生命現象は温度の影響を大きく受けますが、この法則に反して概日時計は温度とは関係なく一定のスピードで進行する性質を持っているそう。では、なぜ温度の影響を受けないのか?そんな研究に取り組み、2024年度の本学学術奨励賞を受賞した前田明里さん(生命農学研究科・博士後期課程3年)を取材しました。

——幼い頃から植物に興味がありましたか?
小学生のときは教科書や資料集に載っている、きれいな植物の写真を見るのが好きでした。高校に入って生物の授業で「遺伝子組み換え技術」を学び、病気に強い野菜を作れるなど人の役に立つ研究をしたいと思うようになり大学に入りました。
もともとタンパク質などの分子に興味があったのですが、名城大学の学部生時代は想像以上に農場でのフィールドワークが多く、もっと分子生物学的な実験をしたいと思っていました。当時は企業で研究したいと考えていて、学部3年のときに就活もしましたが、企業説明会で「修士は出てないと研究職は難しい」と言われ、進学することに決めました。
 
——現在の研究室にはどんなきっかけで入ったんですか?
学部の研究室では根の研究をしていたのですが、そのなかで気になっていた“概日時計”か“幹細胞”の研究をしたいと思い、県外を含めていくつか研究室を見学させてもらいました。その中で、名大の生命農学研究科で概日時計の研究をしている中道範人教授を訪ねたのですが、研究内容だけでなく、このくらいのペースで論文を出したほうが良いなど、研究者になるためのステップを丁寧に教えてもらいました。大学院での生活が具体的にイメージでき、成長できる環境だと思い、中道先生の研究室を選びました。
 
——研究室に入ってみて、いかがでしたか?
面倒見の良い先生で、恵まれた環境で研究に集中できています。概日時計に関してほとんど知識がなかった私に対してもイチから丁寧に教えてくれ、一日の終わりには「今日はどうだった?」と声を掛けてくれるなど、いつも気に掛けてもらっています。

学会で鹿児島を訪れたときに撮影した中道先生との2ショット

——その後、博士後期課程まで進んだ理由は?
5年一貫の卓越大学院プログラム(※)が名大にあることを知り、GTR(トランスフォーマティブ化学生命融合研究大学院プログラム)の説明会に行ったときに「博士卒しかできない仕事がある。ドクターじゃないと研究以外の業務にまわされることもある」という話を聞きました。研究職になりたいという思いが強かったので、博士まで行きたいと思いました。GTRの選考に通ったら博士まで、落ちたら修士までと思っていましたが、無事合格できて安心しました。

※卓越大学院プログラム……文部科学省が2018年に導入した5年一貫の博士課程プログラム。大学院生は、海外の研究チームや産業界との共同研究を通して、化学と生命科学、エレクトロニクスと機械工学、医療と情報科学のように複数の専門が融合する領域の研究に携わります。名大では4つの採択プログラムが提供されており、経済支援制度が用意されています
https://dec.nagoya-u.ac.jp/wise_program/

——GTRに参加して良かったことは?
学部生時代から実験的なアプローチのみを学んできていたので、計算科学的なアプローチもできるような研究者を目指したいと考え、柳井毅先生(トランスフォーマティブ生命分子研究所 教授)の研究室に融合研究でお世話になりました。
生物と科学では物事を考える順序が違ったりして、こういう考え方もあるんだと視野が広がり、貴重な経験ができました。中道研での研究との両立は大変でしたが、最終的には論文も完成できて良かったです。

GTRでは学生がイベントの企画運営を行う「院生企画」に挑戦。今年のノーベル賞で話題を集めたタンパク質立体構造予測ツール「Alphafold2」に関する講演会を企画しました

——今年度の本学学術奨励賞を受賞し、研究発表コンテスト「NU3MT」で総長特別賞を受賞されました。
学術奨励賞は指導教員の推薦が必要で、中道先生から「どんどん賞に挑戦しよう。学術奨励賞の実績は今後の研究生活で役立つ」と後押しいただき、受賞することができました。先生をはじめ研究室のメンバーには本当に感謝しています。
NU3MTでは発表で使う専門用語を「概日時計」だけにするなど慎重に言葉を選び、研究内容がちゃんと伝わるよう工夫しました。当日は両親が聞いてくれたみたいで、私が大学院で何をやっているのか紹介できて良かったです。

今年の「NU3MT」では総長特別賞を受賞

——GTRや学会などでも表彰されていますが、評価を受ける理由はどこにあると思いますか?
概日時計を知らなかった頃の感覚をまだ忘れていないのが私の強みです。だから私のプレゼンは何も知らない人が聞いても研究内容を理解しやすいのかなと思っています。「この用語は丁寧に説明しよう」「これは図にした方がわかりやすい」と、とにかく聞いてくれる方に研究が伝わるよう、発表内容やスライドは常にブラッシュアップが必要です。特に発表の冒頭でつまずくとついていけなくなってしまうので、前半部分は丁寧に説明するよう気を付けています。

2021年に開催された第28回日本時間生物学会学術大会では優秀ポスター賞を受賞

——今後はどんな研究をしていきたいですか?
概日時計の研究は植物以外にも生物が対象になることもありますが、私は植物にこだわりたいです。植物の環境への適応力の高さはすごいと思っていて、「植物が温度をどのように感じているか」を追求していきたいです。
今年の春に日本学術振興会の特別研究員(DC2)に採用され、来年度までサポートを受けられるので、卒業後1年間は研究員として中道先生の研究室に残る予定で、その後もアカデミアで研究を続けていきたいです。
自分の好きなことに一生懸命取り組める博士課程は、人生最後の「青春」だと思っています。修了まで残り数ヶ月、最後まで青春を満喫したいです!

語学留学のため1ヶ月訪れたイギリス。ハリーポッター好きの前田さんは
「空気を吸えるだけでもうれしかった」と喜びます
中道教授(下段中央)と村中 智明 助教(下段右)以外は全員女子という中道研のメンバー

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