「昔はいたんだけどね」っていいたくないから…。今伝えたい海の「光」とは?
光るナマコの新種を13種も見つけたとの一報を受け、「え、そもそもナマコって光るの?」というところから始まった今回のインタビュー企画。情報主は、別所-上原 学さん(高等研究院/理学研究科 特任助教)。光る生き物として有名どころのホタルやクラゲだけでなく、光るキノコからミミズまで、光る生き物は何でも知っているといっても過言ではない、光る生き物ハカセです。
ちょうど2年前のこの時期、フロントラインでは篠島(愛知県三河湾の離島)でのウミホタル採集に同行し、別所さんの光る生き物研究への本気度を目の当たりにしました。二児の父でもある別所さんが、子どもたちの世代を思いやり語る、光る生き物が「好き」以上の思いとは…?
<インタビュー概要>
── そもそもナマコって光るんですね。
そうですね。光るナマコ、かなりレアな生き物かなと思います。1700種ほどいるといわれるナマコのうち、光るものはこれまで30種ほどしかわかっていなかったんです。今回の探査で新しく13種見つけ、42種になりました。数百mより深い海にいる深海性のものしか知られていなくて、今回の探査でも1000mより深い所でしか見つかっていません。近縁のグループの中に光るかもしれない種類がどれくらいいるか、という進化的な観点で解析もしたんですが、もしかすると、光るナマコは200種以上いそうだということもわかってきました。
── 深海でナマコが光るのを実際に見たそうですね。その感動はいかに!?
オーロラみたいな感じです。体全身に、光の波が広がっては戻ってきて…を繰り返していて。「こんな光り方をするんだ!」っていう驚きがありましたね。この探査で、超高感度カメラを搭載した深海探査機を使って、生きているナマコの発光を見たことは大きいです。1000mより深い所から取ってきたナマコは、普通はグデっとなってしまうので。
©Steve Haddock, MBARI(モントレー湾水族館研究所)
── それは、深海でナマコが光る様子を人類が初めて目にした瞬間ということですよね。
そうですね。その映像自体はものすごい衝撃だったので、ちょこっとニュースに取り上げられたりもしました。深海4000mぐらいの領域って、太陽の光はほとんど届かないんですけど、実は生き物の光でにぎわっているんじゃないかな、と思っています。生き物の光って、海の中で意外と遠くまで届くし、方向もわかるシグナルなんですよ。
── 深海に住む生き物は、目が退化してるものもいると聞きます。なぜそのような環境で光ることが大事なんでしょう?
目を退化させている生き物もいるんですけど、目を発達させて、とても高感度で見る生き物もすごくいっぱいいます。魚とかイカとか。これはまだ仮説ですが、目を持たず大して動けないナマコが光るのは、光ることで二次的な捕食者を呼んでいるのではないかと考えています。つまり、ナマコを食べる生き物に対してナマコは反撃できないので、光ることでこの敵を食べる別の生き物を呼んで退治してもらう作戦を取っているんじゃないかと。
── 著書では海の生態系についても触れていますね。
今、パソコンなどに使われるレアメタルやレアアースが陸上では枯渇してきていて、海底資源に注目が集まってるんですね。重機を海底に降ろして掘削するとなると、海の生態系が脅かされるんじゃないか──海洋研究者の間で危惧されています。例えば掘削時の騒音が、イルカなど音を使う生き物たちの邪魔になると言われています。
── 生物発光との関連は?
視界の悪化です。掘削で土ぼこりが舞って視界が悪くなれば、生き物たちの光による情報交換が阻害されるんじゃないかと考えています。ただ、これに注目している研究者はまだ全然いない…今まで生物発光が注目されてこなかったので。海底環境に、「光を使って交信している生き物がいる」ことを伝える研究が必要だと思いますね。その重要性を示していくことが、深海の生態系を守ることにつながるんじゃないのかなと思っています。
── 研究の原動力には、「好き」以上のものがあるのですね。
好きなものってシェアしたいじゃないですか。「こんなのがいるんだよ」って。例えば、子どもや孫の世代に見せたいなと思ったときに「そういう生き物が昔はいたんだよ、もう絶滅したけど」って言いたくないなと思うので…。生態系保全には、すごい興味を持っていますね。
── 新種のナマコの発見は、図鑑に載る載らないレベルの話ではなかったのですね…。別所さん、心に響くメッセージをありがとうございます。
インタビュー・文:丸山恵
◯関連リンク
プレスリリース(2023/6/1)「深海底に広がる発光ナマコの多様性の解明」
書籍「The World of Sea Cucumber」 (2023/6/1, Academic Press - Elsevierより出版)