第109回名大カフェ☕がんとのいたちごっこはなぜ起こる?―根源に潜むがんの強靭な生存戦略―
2024年10月4日(金)に第109回名大カフェ「がんとのいたちごっこはなぜ起こる?―根源に潜むがんの強靭な生存戦略―」をオンライン(zoom)で開催しました🧐。なんと100名以上の方がご参加くださいました‼今回のゲストは名古屋大学大学院医学系研究科 分子細胞免疫学 助教の加藤 真一郎さんです。
今回は、加藤さんに「がん」とはなにか、再発するとはどういうことなのかについてお話いただきました🧐。加藤さんはがんという敵を徹底的に調べ、がんの耐性や再発の種となるモノを突き止めた上で、創薬の研究につなげています。
治療によって進化・多様化するがん。あたかも治療されることが分かっているかのように変化していくがんの強靭さには怖さだけでなく狡猾さすら感じます。そんながんに勝つ為に、加藤さんの研究ではなんとすべてのがん細胞に「バーコード」をつけて標識し、細胞の情報を追跡できる技術を作り出したそうです😊。
少し難しいお話でしたが、「ゆっくりお話ししますね」という前置きと共に穏やかに丁寧にお話しいただいた加藤さん。そんな加藤さんのお話が分かりやすかったことから、数多くのコメントや質問をいただきました🤗。皆様にお話がしっかり伝わったことがとても嬉しそうな加藤さん、丁寧にお答えくださいました。みなさま、たくさんのコメントやご質問、本当にありがとうございました。事前質問や答えきれなかった質問やコメントについて、以下、加藤さんからのお答えです。
Q. 現代社会の人に対するストレスも癌発症の原因となるのでしょうか。社会的な治療も癌根治の手段となり得るのでしょうか。
A. 疫学的にはストレスによって、発がんのリスクが上昇することも報告されております。ストレスを排除することで、社会的な治療になるというのはとても面白い考え方だと思います。それだけでは根治は難しいかもしれませんが、そうしたアプローチも根治に向けた取り組みの1つとして必要ではないかと考えます。
Q. がんになるかどうかは、その人の体質にもよると思いますが、その差は何でしょうか。遺伝子、環境、栄養などなど
がんのなりやすさは遺伝的因子と環境因子の両方によって影響されると考えられています。また、基礎疾患の有無などもあります。具体的に発がんのリスク因子については、疫学的な研究や実験によって示唆されています。
Q. どうやってがん細胞にバーコードを付けるのか、もう一度説明お願いします
私たちが使っている「DNAバーコード」と呼ばれる手法では、人工的な(本来生体に存在しない)ランダムなDNA配列をバーコードとして、がん細胞のゲノムに導入しています。DNAバーコードは、理論上「10京種類以上」の多様性を持たせることが可能ですので、数字上は全身の全ての細胞を個別のDNAバーコードで標識しても余りあるスケールで、細胞の標識・追跡が可能です。導入には、レンチウイルスを使っています。この作業は全て、生体外(試験管内)で行っており、私たちの実験では1万種類ほどの固有のバーコード配列を使ってがん細胞を標識・追跡しています。
Q. バーコードを打つとは、打った細胞は実験で取り出してしまうので、生体中では、どの細胞か、わからなくなるのではないですか。
内容をしっかりと把握された上での質問かと思います。とても嬉しいです。ご質問の通り、1個体しかいないと、侵襲的にバーコード化がん細胞を取り出して解析した場合、組織や細胞を破壊してしまいますので、その後追跡することはできません。そこで、実際に実験的にバーコード細胞を追跡する場合には、バーコード化したがん細胞をあらかじめたくさん増やしておいて、バーコード化したがん細胞を同じように移植された個体(マウス)を複数用意しておきます。全く同じバーコードを持つクローンマウスがたくさんいると思ってください。こうすることによって、いろんな時点で、クローンマウスからがん細胞を取り出すことができるようになり、その動態を解析・追跡することが可能になります。
Q. 実験ではメラノーマでの耐性を扱っていましたが、ほかの固形ガンでも同様のDTP細胞から後天的に発生すると考えられるのでしょうか?
考えられます。他の固形腫瘍でもそうですし、他のがん治療薬によっても、DTP細胞から後天的に発生することが報告されています。
Q. 阻害剤は正常細胞に障害はないのでしょうか。エピゲノムやヒストン修飾の変化を解析されたことはありますでしょうか。
我々の検証ですが、発表で紹介した阻害剤が「がんの耐性・再発を抑制する薬物濃度」で正常細胞を障害するようなことはありませんでした。エピゲノムやヒストン修飾の変化については、とても重要なポイントで今後きちんと解析していく必要があります。貴重なご意見をありがとうございます!
Q. LSD1と同じような機序を示すものが元々の体内には備わっていないのでしょうか?
今回は、LSD1はがんの耐性化を助けているもので、そのLSD1の機能を薬で抑えてやると耐性・再発できなくなるというお話でした。
Q. 原発性のがんを、どのような検査でも見つからない非常に初期段階で抑制する「がん予防薬」の可能性はありませんか?
十分にあり得ると思います。こうした取り組みも実際に国家的に行われております。
Q. 癌化した細胞を、その後の細胞分裂が進む間に、ゲノム的に正常細胞に戻す事はできるのでしょうか。
技術的には部分的に可能ですが、実際に治療への応用は難しいと思います。「生体内に存在する、全てのがんの、全てのドライバー遺伝子を正常な状態に書き換える」ことができたら、言葉では言い表せないくらい、人類史に残る素晴らしい成果だと思います。
Q. 「耐性化」ということであれば、ますますがん細胞は強くなっていくということで、やはり撲滅はできないということにいきつくのではないでしょうか。対処療法で切り抜けていくとうことでしょうか。
耐性化だけを狙っていると、ご指摘のように、結局がんとのいたちごっこからは抜け出せないと思います。我々は、耐性・再発させずに、そのまま既存治療薬との併用によって「がんを根治」させようというアプローチを狙っています。
Q. がんで亡くなる人がゼロになる日は来るのか。
生物がゲノムという強靭な生命システムに支えられている以上、がんという疾患を無くすのは難しいかもしれませんが、がんになっても悩むことがなくなる、がんが怖い疾患ではなくなるという日は来ると思います。
Q. ガン細胞を抑え込むということでしょうか?それとも消し去ることができるということでしょうか?
がんを根治することができる、というアプローチを考えています。
Q. 遺伝子が原因のがんという場合、薬は効くのでしょうか。
厳密には、遺伝子変異によって生み出された変異タンパク質に対して、がん治療薬(分子標的治療薬)が作用します。
Q. CRISPRスクリーニングでは遺伝子を全部見たら、その細胞は死んでしまって溯ることはできないのではないですか。
1つの細胞で全ての遺伝子を調べるのではなく、1つの細胞で1つの遺伝子を調べるようなイメージです。それをひとまとめにやるので、20,000遺伝子の影響を個別の細胞で独立して、一気に解析することができます。
Q. 最近薬や治療の費用負担が増えてきています。高度治療だから当然なのですが、治療法があったとしても高額で治療が受けられない可能性があり、がんに勝つ前に患者の経済事情を克服しなければならないということにならないでしょうか
とても貴重なご意見ありがとうございます。私も同様の懸念を持っております。患者さんの経済的負担は、研究者だけではなく、産学官が一体となって解決していかないといけないと思います。良い治療が須くみなさまに届くようにと思っていますので、そうした取り組みも進められるように心がけるべきだと思います。
Q. 本で読んだがヤヌスキナーゼのようなものがガン抗体に使えるとか使えないとか、その辺りを聴けたら嬉しい。
Janus Kinase (JAK)に対する阻害剤は確かに臨床利用されていますが、がんではあまり適用がないように思います。一般的に、JAK阻害剤は腫瘍免疫応答を抑制してしまいますので、そうした作用機序が明らかであることが理由に挙げられらます。
Q. 副作用の広がりは?
今の所、DTPから耐性・再発してくる濃度では、正常組織・細胞への明らかな傷害は認めていません。
Q. がん細胞の不老不死性は、すでに医療に応用されているのですか。
間接的にではありますが、最も臨床利用に近いのは、|iPS《あいぴーえす》細胞だと思います。リプログラミング・不死化によるがん化のリスクはかなり解消されてきましたが、依然として不死化に伴うがん化のリスクはまだ完全には払拭されておりません。
蛇足ですが、がん細胞の不老不死性はテロメアの短縮を阻害するテロメアーゼという酵素の働きが重要だと考えられています。実際に正常細胞にテロメアーゼを導入すると不死化細胞を樹立することができ、さまざまな医科学実験に応用されております。
今回の加藤さんのお話で、がんに勝てる日が近づいていることを感じました。がんにはなってしまうが、怖くない、そんな日が来ることを願い、加藤さんの社会実装の今後に超期待です。皆さんで加藤さんを応援しましょう。フレフレ加藤さん!(そんな応援コメントもいただきました😊)
引き続き名大カフェをますます良いイベントにするべくがんばります!みなさま、今後ともどうぞよろしくお願いします😊。今回の動画配信の準備ができましたら、リンク先を以下に貼りますので、今しばらくお待ちください。動画配信準備ができました!是非ご覧ください。👇👇👇
(報告:坪井知恵)
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