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静かなるキナーゼ、その働きとは?

ヒトでは生命が宿ってわずか22日目頃から形成されている心臓。その後24時間、365日拍動を続けています🫀。そんな働き者の心臓は障害を受けると「線維化」して固くなってしまいます。そして、それは心不全の発症と増悪に大きく寄与していると考えられています。しかし、なぜ心臓が線維化してしまうのか、その詳細は実はまだ分かっていないのです🧐。

「循環器の病気のうち、「心不全」を極めたいと思っています。」

そう力強くお話されたのは、名古屋大学の吉田 聡哉よしだ さとやさん(医学系研究科 博士後期課程学生)です。臨床医として循環器のさまざまな病気に出会い、その中でも心不全を極めていきたいと思い、臨床医として仕事をしながら大学院に進学したそうです。その際にラブコールを受けたのは竹藤 幹人たけふじ みきとさん(医学系研究科 講師)。今回は心不全の制御機構にプロテインキナーゼNが関与しているという新しい発見があったとのこと、早速お話を聞いてきました。

写真左上:竹藤 幹人たけふじ みきとさん(医学系研究科 講師)
写真左下:吉田 聡哉よしだ さとやさん
(医学系研究科 博士後期課程学生)
写真右下:名大研究フロントライン執筆者 丸山 恵まるやま めぐみ
(学術研究・産学官連携推進本部URA)
写真右上:本記事執筆者 坪井 知恵つぼい ともえ
(学術研究・産学官連携推進本部URA)

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──プロテイン”キナーゼ”、ってそもそも何ですか?

(竹藤さん)キナーゼとは目的とする分子にエネルギーを付加(リン酸化)することで、その分子を活性化または非活性化させる酵素です。例えば、友情を育む時、普通のタンパク質だと1対1でがっちり握手して育む一方で、キナーゼは1人で演技すると近くにいる何千人と一気に育むことができる、そんなイメージです。

──魔法使いのような酵素なのですね。数多くあるプロテインキナーゼのうち、プロテインキナーゼ”N”に着目されたのはナゼですか?

(吉田さん)過去に、竹藤先生の元で研究していた先生が、心筋細胞においてプロテインキナーゼNが心不全などをコントロールしている可能性を見出しました。なので、もしかするとプロテインキナーゼNは心臓の線維化にも関与しているのかもしれない、と考えて今回着目しました。
(竹藤さん)プロテインキナーゼNは、名古屋大学も含めた日本の複数の研究室から、世界に先駆けて発表されました。1990年代くらいですかね。その後、このプロテインキナーゼNの上流にあるGタンパク共役型受容体やその下流にある低分子のRhoローキナーゼが発見されました。それらは細胞分裂など生命活動に大きく関わっていることが分かり、研究はすごく盛んにされたのですが、プロテインキナーゼNの詳細な働きは明らかになっていませんでした。なので、静かなるキナーゼみたいな、歴史の中で忘れ去られていたキナーゼの一つです。

── その静かなるキナーゼをもう一度研究しようと思ったキッカケはなんだったのですか?

(竹藤さん)実はそのプロテインキナーゼNを報告された先生が、私の師匠で。なので、プロテインキナーゼNの働きを調べる、ということが私の大学院生時代からの大きな宿題だったのです。世界中で研究されているRhoキナーゼの研究をするよりも、歴史的に注目された分子でまだ機能が分かっていないモノに対して研究者として時間を割くべきではないか、と留学先のディレクターにもサジェスチョンされました。

──そのプロテインキナーゼN研究のバトンが吉田さんに渡されたわけですね。

(吉田さん)そういうことになりますね。今回の私の研究では、心臓の線維芽細胞という細胞のプロテインキナーゼNが心臓の線維化をコントロールしているということを明らかにしました。

心臓の線維芽細胞の免疫蛍光染色画像を撮影する吉田さん。論文の中にも数多くの蛍光免疫画像が載っていますが、それらはこのように吉田さんがコツコツと撮影されたものなんだそうです😊。

──どのようにコントロールするのですか?

(吉田さん)心臓線維芽細胞が分化をしていって、線維化を作る、言い方は悪いですが、悪いものに変わっていくんですね。その変わっていくスイッチの役割をしているのがプロテインキナーゼNなのです。つまり、プロテインキナーゼNが活性化するとそのスイッチをオンにして、線維化を進行させていきます。

プロテインキナーゼN(PKN)が活性化すると、その下流にあるp38ぴーさんじゅうはちをリン酸化し、コラーゲン1、3(Col1, 3)の遺伝子発現を増加させることで筋線維芽細胞へと分化を誘導し、その結果、心臓の線維化が進むんだそうです。(図はプレスリリースより引用)

──なるほど。ならばこのプロテインキナーゼNの活性化が止められれば、線維化は防げる、ということですか?

(吉田さん)すべてが防げるということではないと思いますが、線維化していく中でプロテインキナーゼNが重要な因子の一つなので、線維化を防ぐ一つのターゲットとして考えられると思います。

──新たな治療法のアプローチにも繋がりますかね?

(吉田さん)そうですね。次の課題がまさしくそこになるのかな、と思います。
(竹藤さん)世の中に既にある様々な阻害剤や治療薬も実はプロテインキナーゼNを抑制している可能性も非常に高いと考えています。実は、既に次の実験も始めていますよ🤫。

──心不全の治療に新たな光がもたらされそうですね。

(吉田さん)安全で且つ、想定通りの効果が出るのか、などまだまだ研究を積み重ねないといけません。
(竹藤さん)誰かが気づいたことで、そこからまだ新しい扉が開き、どんどんその連鎖が生まれていく、そんな感じで治療法の開発が進んでいくことが十分にあると思います。

──なるほど。今回の発見がどれほどすごいものなのかがよく分かりました。歴史的な大発見だったのですね!

(吉田さん)まだ自分としては実感がないのですけどね🤭。この論文ができるまでに4年数カ月かかりましたが、よかったです。

──どの辺りが一番苦労しましたか?

(吉田さん)自分は進学する前は普通に臨床医としてやってきただけなので、基礎研究で右も左も分からない上に、結果が出ない時にはどうしたらよいのかとても困りました。その中でいつも竹藤先生は支えてくださり、また身近な先輩や後輩や基礎の先生方などさまざまな方が支えてくれました。
(竹藤さん)吉田先生はすごく優秀でしたし、やる気もセンスもありました。こういう若い臨床医がどんどん出てくると嬉しいですね。

── 吉田さんは卒業後も基礎研究は続けられるのですか?

(吉田さん)いろいろな選択肢があり、考えています…最終的には臨床に戻りたいという気持ちが一番強いです。ただ、臨床医として「心不全」をみていく上で基礎研究を知ることはとても重要なことですし、且つ、竹藤先生の元での基礎研究を通じて何が問題なのか、その問題を解決するにはどうしたらよいか、という論理的思考を学ぶことができたと感じています。

竹藤さん(写真左)と吉田さん(写真右)
普段お二人が研究を進めている研究室にて撮影いただきました。基礎研究を通じて磨かれた論理的問題解決能力は、家庭でもその能力を発揮しています(笑)!と吉田さん🤭

── 「臨床で使っているものは、数多くの人が仮説を立てたり、偶然見つけたりとか、そういう結果の上に立っていることを知ることは医師として幅が広がるのではないかと思っています。」と穏やかに話される竹藤さん。その医師としての幅の広さに惹かれた吉田さんと共に今後の心不全治療に新たな光を照らしてくれることと思います😊。今後のお二人の研究を楽しみにしています。

インタビュー・文:坪井知恵(名古屋大学URA)


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