ヘビはなぜ怖い?
今年も残りあと少し。来年2025年は巳年ですね🐍
年明けを前に、かわいいヘビの置物やイラストをよく目にするようになりました。
では、こちらのリアルなヘビの写真を見て、どのように感じますか?
「怖い」と感じた方、怖がり屋で…って恥じることはありません。実は本能的なことのようです。
なぜヒトはヘビを「怖い」と感じるのか──。
川合伸幸さん(名古屋大学大学院情報学研究科 教授)は、長年の研究と考察の末、ついにその答えを学術論文として発表しました。
ヘビに対する「怖い」という感情の裏に隠された進化の物語について、川合さんに伺いました。
進化の過程で育まれた「ヘビ探知能力」
「大昔、霊長類にとって、ヘビはほぼ唯一の捕食者だったんです。」
約6,500万年前、恐竜が絶滅して地球の環境が激変した頃、霊長類は樹上で暮らすようになりました。30mもの樹上に登ってくるヘビは、霊長類たちにとっては脅威です。その存在をいち早く察知する能力が霊長類の進化の中で発達したと考えられています。
「本当にそんな能力があるのか、9枚の写真を使ってこんな実験を考えました。8枚はイモリ、1枚はヘビです。①仲間はずれの動物(ヘビ)を探してみてください。」
おぉ…ちょっとドキッとする写真ですね。みんなウネっとしていますが、ヘビは右列の中段ですね。佇まいがなんとも特徴的です。
「はい、では今度は、8枚がヘビ、1枚がイモリです。②仲間はずれの動物(イモリ)を探してみてください。」
えぇと…(目を凝らしてもわからない…)イモリ、本当にいますか?
「右列中段がイモリですね。この仲間はずれ探しを、3頭のニホンザルにやってもらったんです。」
川合さんは、ヘビもイモリも見たことがないニホンザル3頭に同じ実験を行いました。結果、3頭とも②イモリより①ヘビを見つける方が圧倒的に速かったそうです。霊長類が持つ「ヘビ探知能力」を裏付ける結果です。
脅威の正体は…⁉
「では、霊長類って、いったいヘビの何に怖さを感じているんだと思いますか?」
川合さんの素朴な問いに、(え、それはあの長くてウネウネとした動きとか、目つきとか、口を開けたところとか…)と考えを巡らせていると、
「私はウロコに着目したんです。」
といって見せてくれたのがこちら↓
ヘビのウロコをまとったイモリの写真です。画像加工でイモリをヘビ模様にし、先ほどと同じ実験をしたそうです(発想がユニークすぎますが、本気の実験です!)。
するとなんと、サルたちは、ヘビを見つけるのと同じ速さ、場合によってはそれ以上の速さで、ヘビ模様のイモリを見つけたそうです。
この結果から、「霊長類は、ヘビのウロコを見て怖いと感じていると確かめられた」と川合さん。脅威にいち早く気づくために、ウロコの視覚情報を「怖い!」と認識できるよう進化してきたのではないか、とのこと。
ヘビが「怖い」理由が、祖先たちが築き上げてきた生存戦略だったとは…!
未知の領域に向き合うのが楽しい
研究の気になる今後はというと、コチラを見ていくそうです↓
ジャガー、ヒョウ、チーターなどネコ科の動物です。ヘビほど高くは登れないけれど、木登りができる、霊長類の捕食者です。やはり体の模様に着目し、霊長類の「怖い」という感情との関わりを探っていくとのことです。
ヘビ柄やヒョウ柄はファッションにも取り入れられていて、好きな人は好きですよね。これも進化の視点で説明できるのでしょうか。今後の研究でわかってきたらおもしろいですね。
「でもこの研究、何の役に立ちますか?って聞かれるんですよ(笑)。」
敢えて言うなら畑を荒らすサル対策とかでしょうか…と話しつつ、川合さんの研究の原動力は、「何が見えてくるのか分からない未知の領域に向き合うのが楽しい」ところにあるようです。
フロントラインでは、これまでにも「怒り」や「食欲」をテーマにした、川合さんの独自性あふれる研究について取り上げてきました。本当に興味の幅が広い…!
派手な情熱というより、ひたむきな探究心という表現がしっくりくる川合さん。今回の研究は、ヘビという身近な存在やユニークな実験を通じて、進化が育んだ本能の一端を明らかにし、自身の感情を見つめる機会も与えてくれたように思います。
私たちも、日常のいろいろな感情に意識を向けてみると、新しい世界が見えてくるかもしれませんね。
インタビュー・文:丸山恵(名古屋大学URA)
◯関連リンク
名古屋大学研究成果発信サイト(2024/11/18)「ヘビの怖さはウロコのせい!? ~ヘビのウロコを着たイモリは、ヘビと同じかそれより早く見つかる~」
論文(ネイチャー・パブリッシング・グループのオンライン総合科学誌「Scientific Reports」に掲載)
比較認知科学研究室(情報学研究科)