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それでも君らの幸せを願うんだよ
母方の実家は田舎の農家で、おじいちゃんは典型的な頑固じじいだった。
親戚の集まりでじぃばぁの家に行くと、たいがい不機嫌な顔をしている。
久しぶりにいとこが大勢集まれば自ずとテンションがあがる。
そんな孫らを、鬼の形相で「うるさい!」と怒鳴り蹴散らしていく。
いつも仏頂面で、かわいがってもらった記憶なんて一つもない頑固じじいだった。
母の兄弟は、男が三人、女が四人の七人兄弟だ。
四姉妹の名前は全員カタカナだった。
おじいちゃん曰く「女の分際で名前に漢字なぞいらん。カタカナで充分だ!」って。
時代錯誤もいいところよね。
男尊女卑よね。
ちなみに、長子は赤ん坊の頃に亡くなったそうで、正確には八人兄弟だった。
亡くなった子の産着やよだれかけを虫干しするおばあちゃんの姿を、子どもの頃に母は何度も見かけたと言う。
おじいちゃんは八人の子どもたちに「南総里見八犬伝」の霊玉に刻まれた文字から名前を付けたそうだ。
あんな頑固じじい(←これで三度目)がそんな洒落たことをよく思いついたもんだと、おじいちゃんをちょっとだけ見直した。
仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌
【仁】思いやり、慈しみ
【義】人道に従う事、道理にかなう事
【礼】社会生活上の定まった形式、人の踏み行なうべき道に従う事
【智】物事を知り、わきまえている事
【忠】心の中に偽りがない事、主君に専心尽くそうとする真心
【信】言葉で嘘を言わない事、相手の言葉をまことと受けて疑わない事
【孝】おもいはかる事、工夫をめぐらす事、親孝行する事
【悌】兄弟仲が良い事
四姉妹の名前に漢字があてがわれていたら、ノブ(信)・レイ(礼)・タカ(孝)・チエ(智)だったんだろうなと思う。
せっかく素晴らしい意味を持った漢字なのに、なんでカタカナにしちゃったのかな。
あと一歩惜しかったよねぇ、天国のおじいちゃん。
***
なごやかに美しく。
私の名前の由来です。
子どもは純粋なもので、私はそれに答えようとした。
自分で言うのもなんだけど(見てくれは)穏やかな性格に成長したのかなと思う。
美しいかどうかは疑問だけれど。
産院で生まれた私を見て、母はがっかりしたそうだ。
父親似の愛らしい赤ん坊が生まれてくるのだと思ったら、母自身にそっくりだったから。
父の家系は美形揃いだったので結婚したんだと母は言う。
この男のDNAを受け継げば、愛らしい赤ん坊が生まれてくるに違いないという、計算ずくな母の思いだった。
色白は七難隠すだとか、なで肩鳩胸は着物が似合うだとか、お年頃の私に母はとんちんかんな慰めの言葉をかけてくる。
女は笑顔を忘れるな、とも言われた。
器量が悪くとも笑顔さえあればそれなりに見えるって。
笑わない私は不細工だってか?
母はデリカシーがないというか、思ったことを噛み砕かないで口にする性格だ。
母がそんなだから、消化不良を起こさないように私は良いように咀嚼して飲み込む。
このトンデモ母さんは姉さん女房だ。
陸上部の三羽烏ともてはやされてきた中学生父は、上級生の中学生母にZOKKON命だったらしい(母談)。
母は父と恋人未満だった頃、別の人がくれたラブレター見せたり(byまちぶせ)、嫉妬心を煽ったり突き放したりしたそうだ。
父は78歳になる今でもその頃の夢を見て、不機嫌な顔で朝起きてくるのだという。
どうしたのかと母が問うと、かわいそうに恋する少年のように胸が張り裂けるのだという。
とんだ悪女だよ。
***
最近知らされたことがある。
実は私の名前は当時、父がファンだったというフィギュアスケートの大西一美さんの名前からもらったのだという。
父のミーハーな気持ちで付いた名前なんだって。
なごやかに美しくだなんて、あとからくっつけたんだってさ。
ちょっと意外でおもしろかった。
もし私が幼い頃、その名前の由来を聞いていたら「私もスケートをやりたい」って言っていたのかな。
名は体を表す。
人は名前に込められた願いを心の片隅に抱きながら、一生を過ごしてゆくのだと思う。