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ハレの日の喜びを分けていただく

私が勤めているフォトスタジオは、成人式の予約が二件入っていた。衣装もヘアメイクも行っていない小さなスタジオは、誕生日や七五三などお子様の記念撮影にみえる方が多く、大人でしかも振袖の撮影は滅多に担当しない。

昨年、アシスタントの補助として初めて成人式の撮影に入ってから、すでに一年が経っていた。カメラマンからは「大人だからね、そんなにやることはないよ」と言われたが、やはり人生で一番大切なハレの日だ。こちらの方が緊張する。

新成人を祝うかのように空は朝から澄んでいて、数日前に雪が降ったのが嘘みたいに晴れて暖かかった。これなら庭での撮影もできるねと話していると、最初の方がお母さんとお姉さんと共に来店された。

「とてもお綺麗です」

煉瓦色に椿模様の落ち着いた柄の振袖は、清楚なお顔によく似合っていた。はにかんだ笑みを浮かべて控室に入り椅子に腰掛けた娘さんの隣では、お姉さんが「私の方が目立ったらごめんね!」と顔の前で手を合わせていて、姉妹仲の良さが伺える。

家族撮影、姉妹撮影、おひとりの撮影と順調に進む中で、袖が綺麗に見えているか、髪が乱れていないか、指がきちんと揃っているか、アングルによって草履の先は少しずらした方が良いのかなど、細かい箇所を確認していく。子供の撮影の時のように手早く進めるのではなく、ゆっくりと時間をかけて行う作業は、ひとつのミスも許されないような気がして身が引き締まる。

「私が着た振袖なんです」

二年前、お姉さんも同じ振袖で撮影をされていた。その画像を事前に確認していたので、「お二人ともよくお似合いですね」と伝えると、お母さんは目を細められてそう答えた。

「それはさらに嬉しいですね」

自分が着た振袖を、娘二人が着る。
母親にとってこれほどに嬉しいことはないだろう。

最後は庭で三人ぎゅっと抱き合って顔を近づけたショットをお撮りした。ムードメーカーのお姉さんが、ぎゅっぎゅっと二人をまとめて抱きしめる様子が可笑しくて、こちらも笑みが漏れる。

母娘で最高の笑顔を頂戴して、一件目の撮影は終了した。



二件目の方は式典を終えられてから来店された。桃色の明るい柄の振袖に、ふわふわのショール、指先はそれぞれ違う色のネイルが施され、とてもおしゃれで華やかだった。

「わぁ、素敵ですね」

「ありがとうございます!」

元気よく挨拶されるお顔はとても愛らしく、人懐っこさが感じられた。ご両親とお兄さんの四人で来店されていたのだが、「楽しみ!」とはしゃぐご本人の横で、お兄さんの方が緊張でガチガチだったのがまた微笑ましい。

ご近所だったこともあり、家族撮影が終わるとお父さんとお兄さんは先に帰宅され、おひとりの撮影を行った。始終「楽しい!」と言いながらも、レンズが向くとさっと大人っぽい表情に変わる娘さんは、きっと普段から自撮りなどで自分の良いアングルを把握されているのだろうと思われた。

表情も立ち振る舞いもとても自然で完璧だったので、撮影は思った以上に早く進み、時間が少し余ってしまった。

「お母さんとお二人でお撮りしましょうか?」

カメラマンがそう尋ねると、お母さんは「いいんですか?」と目を丸めて私の方を向き、私が「記念ですから、ぜひ」と答えると、嬉しそうにマスクを外して娘さんの隣に並んだ。

こぼれ落ちそうなほどの笑顔で娘さんに寄り添うお母さんは、とてもとても幸せそうだった。

「では、二人で抱き合って下さい!」

小柄なお母さんを娘さんが包み込むように、二人で抱き合う。楽しそう。

「そこからお互い見つめ合いまーす」

「ええ!」と驚きながらも、そっと見つめ合う。

「近いね。近い」と少し照れている娘さんを見上げながら、「こんなに近いのはいつぶりだろうね」と言うお母さんの眼差しは、優しくて温かくて穏やかで、何ともいえない愛情が溢れていた。



ハレの日。
多くの新成人と、その家族が喜びを噛みしめる日。

大切な日の撮影に立ち合わせていただいたこと、またその喜びを分けていただいたことを、心から嬉しく光栄に思います。


成人の日の思い出が、写真だけではなく未来にずっと残り続けますように。

新成人の皆さま、おめでとうございます。



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