ワインのサブスクリプションを考える
ワインの飲み手がどのようなプロセスを経て1本のボトルを手に取るのか、というのは難しい考察です。一方で消費者1人1人の嗜好の方向性は割とはっきりとしており、特段の理由がない限りにおいては基本的には各自の嗜好の方向性に沿ったボトルを選ぶのが一般的だろうと予想できます。
こうした消費者の行動原理は時としてワイナリーの挑戦を阻害する致命的な要素となり得ます。
一方でこうした消費者の日常行動を変えられる可能性のあるアクションはいくつかあります。例えば、接客。顧客に1対1で向き合い、丁寧にコンサルティングをしていくことで新しい方向性へ興味を向けさせられる可能性があります。
例えば、教育。ヒトの行動範囲は意外に狭い範囲にとどまっています。そうした狭い領域の中で接触機会が多く、慣れ親しんだ対象を「自分の好み」と思い込んでいることは少なくありません。こうした部分に対して、資格試験のための教育などで半ば強制的に触れた新しい方向性が実はより自分の好みに合っていた、と気が付くことは少なくありません。
接客や教育による新たな好みの発見は以前からよくあった可能性です。一方で最近の動きの中で検討する意味のありそうな手法が出てきています。
ワインのサブスクリプションサービスです。
サブスクリプションサービス、つまり月額固定制の販売形式はここしばらくで各業界において一気に増えてきました。この動きはワインの販売においても同様です。月極の料金を支払っていれば毎月数本のワインが届けられるサービスが各社から提供されています。
ワインのサブスクリプションサービスの最大の特徴は、顧客が自分でワインを個別に選ぶ必要がない点でしょう。ワインを選ぶ、という行為は意外に重労働です。その点、有名な肩書を持つ人が選んでくれたワインが自動的に届くサービスというのは手間がかからず気楽です。しかも、自分の知らないワインが届きます。
人は基本的には知らないものを認識しずらい性質があります。つまり、知らないワインと知っているワインが並んでいれば、多くの場合、知っているワインを選びます。消費者はとても保守的です。その点、顧客が知っていようが知らなかろうが、一方的に選択して送りつけてくるサービス (言葉が悪いですが事実であることはお分かりいただけると思います) は新しい発見を促す意味では大きな価値があります。
一方でこのワインのサブスクリプションサービス、実は継続しない人が多いのではないかと個人的には考えています。厳密にいえば、すでにワインに慣れている層からは受けが良くても、そうではない、ワインにまだ慣れ親しんでいない層には馴染まないのではないかと思えるのです。
ここからはワインのサブスクリプションサービスを考えるうえで必要になるのではないかと思われることについて、書いていきます。なお、こちらの文章はサブスクリプションサービスを販売する視点からのものです。ワインの初心者の方にどうやってワインに馴染んでいただくのか、といった内容のものではありません。ご注意ください。
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